シュラウドひび割れについての考察(02/09/08)
こんにちは、山崎 久隆です。
竹野内さんの投稿に触発されて書き込みます。
定量的な話をするには、情報不足ですので、定性的な話としてお聞き下さい。
この間の東電事故隠しについて、全く論じられていない重要な問題が、まさに「シュラウドが破断したらどうなるか。」という点です。
その前に、シュラウドの役割を整理します。
国や電力、あるいはその説明を記事やニュースにしている報道では、シュラウドとは「炉心隔壁」であり「原子炉の冷却材の流れを整える装置」などと説明しています。
例えばNHKニュース「核燃料のある炉心を覆い冷却水の流れを整える役目を果たしています。」などですね。
これはこれで間違いというわけではありませんが、十分でもありません。
炉心の中には、上から「蒸気乾燥器・ドライヤー」「気水分離器」「シュラウドヘッド」「シュラウド」「上部格子板」「核燃料」「下部格子板」「ジェットポンプ」「制御棒案内管」があります。このうち、上下に積み重なっている状態にあるのが「蒸気乾燥器」「気水分離器」「シュラウドヘッド」「シュラウド」「上部格子板」「核燃料」「下部格子板」です。
つまり、これらは垂直に荷重がかかっている関係にあります。
シュラウドは、上に乗っかっているこれら装置を支えていると共に、上部格子板と下部格子板により位置決めされている核燃料も支えているのです。
もっとわかりやすく言えば、核燃料そのものはボルトなどでは固定されていません。最初にクレーンで上からつり込まれるのですが、下には「燃料支持金具」という土台が下部格子板に据え付けられていて、その支持金具の穴に差し込まれるように挿入されます。
上は上部格子板により動かないように固定されるのですが、この固定は、格子板と燃料体を板バネで押さえているだけです。そうしないと、運転時の熱で膨張したり炉心を流れる冷却材の流れで燃料体は動きますので、遊びが無いと破壊してしまいます。
上部と下部の格子板はシュラウドの段差に合わさるように置かれます。福島2−3と柏崎刈羽原発3号機で大量の亀裂が見つかり、一躍有名になったH6aというライン、これは下部格子板をささえる位置の外側です。
さて、シュラウドが破断し、ずれたらどうなるか。
ここまでの説明で十分想像がつくと思いますが、上部格子板と下部格子板により位置決めされた燃料が、シュラウドが破断してずれることによって傾くということになります。
上部格子板に引っ張られることで、燃料が傾くとどうなるか。冷却材の流れに影響が出るだろうと想像できますが、そのことで冷却能力や核分裂反応がどうなるかまではちょっと分かりません。
しかし最大の問題は、制御棒の挿入に重大な支障が出るだろうと言うことです。
竹野内さんが紹介してくれた論文によれば、最大50ミリもずれる可能性があるというのですから、尋常ではありません。(私は感覚的に10ミリないし20ミリと考えていました。)
制御棒は長さ約4メートルのステンレス鋼材によって作られたものです。薄いステンレス鋼の板を箱状に加工し、その中にハフニウムやボロンカーバイドといった中性子吸収材(制御材)を詰めています。それを十字形に組み合わせたものが制御棒で、強度はほとんどありません。(加重を支えるわけでもないし、圧力がかかるわけでもないから)内部で腐食が起きて膨張し、被覆のステンレス鋼材が5ミリも浮き上がって燃料体を覆うチャンネルボックスに接触し、制御棒が固着するという事故を実際に起こしたことがあります。(1997年12月5日発生インターネット上で詳しい情報を見ることができます)
その制御棒と燃料体のチャンネルボックスとのすき間は約6ミリしかありません。チャンネルボックス同士の間は約20ミリ、制御棒の厚みは7ミリですから、すき間は6.5ミリとなります。
さて、こんな狭いすき間で動く制御棒なのに、これが50ミリも動いて傾くとどうなるでしょうか。
最初から50ミリずらした状態で制御棒が入るかと言えば、たぶん入るだろうとは思います。4mの長さの中で50ミリですから、傾く角度といってもたいした角度ではありません。また、制御棒にはガイドローラーがついていて、チャンネルボックスにぶつからないで挿入できるようになっています。また、強度がほとんどないので、制御棒自体がチャンネルボックスを突き破るということもありません。
しかしシュラウドが破断して50ミリもずれるというのはどういう状況を仮定すべきでしょうか。間違いなく地震です。
上部から何十トンもの重さがかかっているシュラウドが破断してずれ動くためには、強大な加重が横方向からかからなければなりません。それは地震以外考えられないのです。 地震でシュラウドが破断し、50ミリもずれ動くと言うことを仮定すると、制御棒挿入がうまくいくという楽観論は吹き飛びます。(シュラウドが破断しなくても入るかどうか疑問だと思っているくらいですから)
50ミリのずれ動き方は、少しずつ動くのではなく、ほとんど瞬時に起きるでしょう。しかも地震動は極めて複雑な加重を発生させます。単純な横揺れとか縦揺れだけを想像していては、本当の地震を考えたことにはなりません。ねじれ方向、つまり円運動をするかのような揺れ方、縦揺れと横揺れが複合した四方八方に投げ出されるような揺れ方、そういった複雑な加重がシュラウドが破断するときに発生しているとすれば、燃料体は単純に50ミリ横に動くなどと言うレベルではなく、チャンネルボックス同士がぶつかり合うほどの衝撃を受けることもあり得ると思います。
そのような状況では、いくつもの制御棒が入らなくなるでしょう。制御棒を止めるにはどの程度の接触が必要か。97年12月の制御棒固着事故では、15ミリ×5ミリ、つまり75平方ミリメートルの接触痕が見つかっています。人の指一本分もないような面積が固着しただけで、制御棒は止まるのです。
制御棒が入らなくても、他が破壊されなければ原発は壊れないと電力などは言いそうですが、とんでもないことです。
地震が起きれば、原発の出力は極めて不規則な上下動を起こします。これはわずか震度5で原発をスクラムさせるほどのものでした。87年4月に福島第一原発1,3,5号機が震度5の地震で中性子束が120%を突破し、緊急停止がかかったのです。原発の設計上止めることになっているスクラムポイントの半分以下の揺れでしかありませんでした。93年には女川でも同様の事故が起きます。そこで電力はようやく解明に乗り出し、原因は地震による震動で燃料体の間隔が開いたり狭まったりし、開いたときに間の水の量が増加し、その結果減速能力が上がって核分裂が促進されたと結論付け、板バネを硬くして揺れを小さくするという対策を取りました。しかしこれによって震度5ではスクラムしなくなりましたが、振動による中性子束の増大という原理は無くなったわけではありません。 震度6強、あるいは400ガルというレベルの振動を受ければ、同様に出力の上下動が起こりえることは電力も否定していません。ただしそんな地震が来れば中性子束高よりも地震動大つまり設定値以上の揺れでスクラムするから問題は無いという立場です。
これまでの説明で分かると思いますが、シュラウドが破断していては、この前提はもはや成り立ち得ないのです。
大地震に遭遇した場合、他のどこが壊れて無くても、シュラウドが破断しているだけで、原子炉はメルトダウンを起こす。これが今回の事故が示す危険性でおそらく最も大きなものでしょう。制御棒が入っても、50ミリもずれ動くと、冷却材の流路閉塞が起こりえます。また、シュラウドの真ん中部分の厚みは50ミリですから、ロックバーン氏の言う冷却材の流出というのもあり得る話です。
このシュラウドの真ん中部分というのは、H4と呼ばれているラインです。福島2−2,3、柏崎刈羽原発1号機で見つかっています。この場所の亀裂が最も深刻だと思います。
理由は2つ。
原因が照射誘起型応力腐食割れ(IASCC)の可能性があること。
これは従来福島2−3のH6aで説明されていた応力腐食割れと異なり、表面加工などの有無は関係なく、また深さ方向で11ミリで止まる保障など無く、表と裏、つまり両側から起きる可能性もあり、貫通亀裂になる恐れが高いという問題があります。
場所は燃料体の中央部。中性子束の最も高い場所に近いので、可能性は高いと思っています。
説明したとおり、破断した場合、燃料体を支えられなくなり、メルトダウンに至る危険性が高いこと。他のどこよりもここH4が一番応力が集中しやすく、かつ厚みが薄く、破断した場合の上下のギャップが一番大きくなるだろうと思いますので、この場所が最も危険だろうと思います。
それにしてもまたしても福島2−3がキーを握っているようです。85年運転開始でSUS316Lを使っていた原発で、これほどずたずたになった原因は何でしょう。腐食割れを加速させるような要因がどこかにあるとしか考えられないのです。そしてそれが89年の大事故にどこかでつながっている可能性があるのではないか。欠陥原発福島2−3は、運転再開から6年ほどでシュラウドに傷が入っていったようです。もっと前から動いていた炉よりもはるかに早く破損していく理由がどこかにあるはずです。
もうひとつの欠陥原発福島1−2、これは1981年にECCS作動事故を起こしていたにもかかわらず、国と一体となって隠してきました。日本で唯一、二度ECCSが動いた炉です。(二度目は92年)
シュラウドの損傷とECCSの作動には何ら関係はなかったのか、あったのか。亀裂が92年以前にあったとしたら、そのときの熱衝撃が亀裂を拡大させた可能性はあるだろうと思います。たぶん必要肉厚を下回ったり、破断寸前になっていたのではないかと想像します。
さて、福島第一原発2号機は、さっさとシュラウドを交換してしまい、現在は切り刻まれて原発の放射性廃棄物保管庫にあります。証拠隠滅をしているのですが、ここから取り出して調べることも、被曝労働を強いることになるので、個人的には求めたくはない気持ちです。
山崎さんの考察に関連するHPを2件紹介します。
まず、「照射誘起型応力腐食割れ(IASCC)」や「熱衝撃」については、以下のページで批判的で専門的な検討がなされています。
・第75回原子力安全問題ゼミ(1999年7月7日)
「原発の長期運転に伴う材料脆化の危険性」京都大学 正脇謙次
http://www-j.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No75/swk9907.htmlまた、新聞記事では、以下に抜粋する内容が関係の深いものです。
・柏崎刈羽原発:炉心隔壁で新たにひび割れ18カ所 応力腐食か(毎日)2002.08.27技術評論家の桜井淳(きよし)氏は「地震や、緊急炉心冷却装置が働いて急に原子炉の温度が下がって、ひびが一気に広がる可能性がある。シュラウドは燃料集合体など数百トンもの重さを支えており、それが破壊されれば大事故につながる。プルサーマル計画の前に、まず今の炉心自体の安全確保を実施すべきだ」と話している。
「照射誘起型応力腐食割れ」や「熱衝撃」の問題は、どちらも「中性子による劣化」がある原発特有の事情に関係し、「中性子による劣化は思った以上に早く進む」ことが、最近の研究で分かって来ているようです。また、MOX燃料が使用された場合を考えると、中性子の強さが増して更に劣化が進みます。
MOX燃料が使用された場合を含め、シュラウドの中性子による劣化程度を、実物を調べた結果により検証し、結果が公開される必要があると思います。 どちらにしろ、「シュラウドひび割れの原因やその影響範囲」が、「完全に解明されており大事故の心配は無い」とは、まだ到底言えない現状ではないでしょうか。
それを、「まるで自分たちが事情を完全に把握し、想定した範囲で事が進むと確信し切る」、科学信仰(盲信?)と自信過剰にまみれた、東電や保安院などの反省の無さが「怖い」です。
今こそ、「予防原則(保全)」の考え方を採用して、「想定外や(不正・)不行き届きな点」が、「きっと残っているに違いない」と謙虚になり、「大地震の起こる前に」原発を止めるべきです。北岡はやと