シュラウドひび割れ問題メモ


シュラウドひび割れ問題メモ(注意;このメモは東電不正事件発覚前のもので、プルサーマル計画実施予定の柏崎刈羽原発3号機に見つかった、シュラウドのひび割れ問題に関する勉強会で使用されたものです。よって、現在ひび割れは実はもっと多くの原発に入っていたことが、「東電不正事件」によってばれたので下記情報には一部変更があります・・)

ふくろうの会(福島老朽原発を考える会)阪上 武

■シュラウドとは
 ステンレス製の円筒形で,缶詰の空き缶から蓋と底を取ったものを巨大化したようなもので,原子炉圧力容器の中にすっぽりと入り,原子炉内部構造物とよばれるもののひとつである。このシュラウドの中に燃料棒がすっぽりと入るという構造をしている。シュラウドは,原子炉内の水流を分離する仕切り板となり,シュラウドの上部に乗っている気水分離器や蒸気乾燥器を支え,シュラウドの中の上下に納まっている格子板によって燃料集合体と制御棒の位置を定めるという役割を果たしている。

■応力腐食割れ
 水質,溶接時に残留する応力,応力腐食割れが起こりやすい材料,の3つが重なると発生するとされている,ステンレスに発生するひび割れである。配管等がひび割れを起こし,これが貫通すると水漏れを引き起こす。応力腐食割れに悩まされてきた東京電力は,応力腐食割れ対策として,材料を炭素を低減した「応力腐食割れ対策材料」に変更することに手をつけ,70年代から80年代にかけて,稼働率を大幅に落としてまで,配管等を交換する作業を行ってきた。それでも,応力腐食割れはなくならなかった。
 浜岡原発1号機で昨年発生した圧力容器底部からの水漏れの原因も,応力腐食割れによるひび割れである。

■シュラウドのひび割れ
 沸騰水型原発(BWR)においてシュラウドのひび割れが問題になったのは1990年代に入ってからである。1990年にスイスのミューレンベルグ原発(34万キロワット 1972年運転開始)で見つかったのが最初である。アメリカでは,ブランズウィック1号炉(85万キロワット 1977年運転開始)から始まり,20基を超える原発で発見されている。ドイツ,スペイン,台湾でも次々と見つかった。
 ドイツのビュルガッセン原発(BWR 67万キロワット 1972年運転開始)は,1994年9月の定期検査で炉心シュラウドの2ヶ所とジェットポンプの1ヶ所に亀裂状の損傷が見つかり停止した。同原発を所有しているプロイセン電力は,修理のための停止期間(2年間)と修理費用(4億マルク)からみて,経済的に見合わないことを理由に廃炉を決めた。
 アメリカのナインマイルポイント原発1号炉(BWR 64万キロワット1969年運転開始)では,1997年3月から実施された定期検査でシュラウドにひび割れが生じていることが明らかになった。損傷が見つかったのはシュラウド中間部のV9とV10と呼ばれる上下方向の溶接部分で,ひび割れの長さは溶接線の3分の2まで進んでいた。また,損傷は内側と外側の両方からできており,壁の50〜80パーセントの深さまで達していた。

■福島第一原発2号機のシュラウドのひび割れ
 福島第一原発2号機(78万キロワット 1974年運転開始)で1994年6月にシュラウド中間部胴と中間部リング溶接部近傍の円周方向にひび割れが発見され,東京電力はこれを応力腐食割れによるものと推定した。ひび割れが見つかったシュラウドはSUS304のステンレス製で,応力腐食割れ対策材料ではないものであった。
 東京電力が明らかにしたところによると,ひび割れは約14メートルの円周に沿って断続的に12カ所,ほぼ360度に渡り,最長のものは約2.3メートル,幅は約0.2〜0.3ミリメートル,ひび割れの深さは平均が約31ミリメートル,最大が約40ミリメートルであった。
 福島第一原発2号機は80万キロワット級のBWR(沸騰水型原発)であり,シュラウドの寸法は,直径約4.5メートル,高さ約7メートル,肉厚は約38ミリメートルである。すなわち,ひび割れは肉厚を超えて進展したことになる。ひび割れが入ったのが肉厚が厚い中間部リングであり,肉厚が約38ミリメートルの中間部胴とはわずかにずれた位置であったことから,実際にはひび割れの貫通,分離には至らなかった。

■「接ぎあて」
 東京電力は当初,ひび割れは放っておいても進展しないと強弁し,簡単な修理だけで運転を強行した。この時の修理はブラケットと呼ばれるもので,ひび割れを挟んでステンレスの板を当て,上下をボルトで止める「接ぎあて」をするものであった。東京電力によると,これは応力腐食割れの進展を止めるためのものではなく,ひび割れが貫通した場合を想定して,その場合にもシュラウドが分離,脱落するようなことがないようにするための措置であると説明した。
 しかしその後,東京電力はシュラウドを応力腐食割れ対策材料を使ったものと丸ごと交換することを決めた。

■シュラウドの交換
 この当時,東京電力の原発のうち,シュラウドにSUS304を使っていた炉が,福島第一原発1・2・3・5号機の4つであった。東京電力によるシュラウド交換はこの4つの号機で行われ,いずれもSUS316Lという材料のものに交換された。Lは,応力腐食割れを起こりにくくするために炭素を低減(Low)したことを意味する。1995年以降,福島第一原発3号機を皮切りに,大量の労働者被曝を伴う大工事が次々に行われ,2001年に最後の1号機の工事を終えた。交換作業には100人を超える外国人労働者が投入され,彼らが最大限の被曝をした。

■福島第二原発3号機のシュラウドのひび割れ
 2001年7月6日,東京電力は,4月29日から定期検査中であった福島第二原発3号機でシュラウドのほぼ全周にわたりひび割れが発見されたと報じた。福島第二原発3号機のシュラウドは,応力腐食割れ対策材料であるSUS316Lであり,福島第一原発で交換を終えた新しいシュラウドもこのSUS316Lであった。材料の交換が応力腐食割れ対策としては十分でないことが明らかとなった。
 東京電力の報告書「福島第二原子力発電所3号機シュラウド下部リングのひびについて」によると,「シュラウドの中間部胴と下部リングとの溶接部について…下部リングの周方向溶接部の下側のほぼ全周にひびが発見された。」「当該部のひびの深さは,最大で約26mm(115°付近),平均で約16mmであることが確認された。」福島第二原発3号機のシュラウドの寸法は,外径約5.6メートル,高さ約6.7メートル,肉厚は約50ミリメートルである。

■応力腐食割れ対策材料の限界
 通常,原発の応力腐食割れで問題となるのは,結晶の粒界に沿ってひび割れが進展する粒界型応力腐食割れであり,福島第一原発2号機で見つかった応力腐食割れもこのタイプであった。ところが,福島第二原発3号機では,「下部リング外表面から約0.3mmの深さ(以下,「極表層部」という)の組織にはすべり線が認められ,この範囲は粒内割れであることが確認された。」これは粒内型応力腐食割れと呼ばれる別のタイプの応力腐食割れである。東京電力は,この表面から約0.3mmの「極表層部の割れは粒内型応力腐食割れであると推定」し,約0.3mm以深の「極表層部以外の割れは粒界応力腐食割れであると推定」している。
 応力腐食割れ対策材料で応力腐食割れが進展したことに関して,東京電力は,「(財)原子力発電技術機構実証試験によれば,低炭素ステンレス鋼は,耐粒界型応力腐食割れに対して優れていることが確認されている。しかしながら文献によれば,切欠きがある場合には,粒界型応力腐食割れが進展することがわかっている。」としている。すなわち,応力腐食割れ対策材料(低炭素ステンレス鋼)といってもこれにより対処できるのは,粒界型応力腐食割れだけであり,しかも,別の原因や別のタイプの応力腐食割れにより,表面に切欠きが生じた場合には,その粒界型応力腐食割れの進展すら防ぐことはないというのである。応力腐食割れ対策材料の効果は,極めて限定されたものである。
 応力腐食割れ対策材料での応力腐食割れは,他にSUS304Lを使ったシュラウドについて,アメリカや台湾でも発生している。

■タイロッド
 東京電力は,福島第二原発3号機のひび割れに際しては,シュラウドの交換をせず,ひび割れの進展は止まると強弁したうえで,タイロッドと呼ばれる「つっかえ棒」をいれる作業を,半年かけて行ったあと,運転を再開した。タイロッドもあくまで,ひび割れが貫通した場合を想定して,その場合にもシュラウドが分離,脱落するようなことがないようにするための措置であり,これがひび割れの進展を止めるわけではないことを東京電力は説明している。

■応力腐食割れの発生,進展の不可避性
 原子力安全委員会が浜岡原発1号機の水漏れについての報告書で,「応力腐食割れ発生を完全に防止することができない」「現時点で,同様の材料及び溶接施工方法を採用している場合には,応力腐食割れが発生及び進展する可能性が否定できない」と述べていることからも明らかなように,応力腐食割れの発生,進展を防ぐことはできない。

■ひび割れの進展評価
 東京電力が行った「ひびの進展評価結果」には,「シュラウド下部リングに発生したき裂は,初期段階では緩やかに進展し,途中で進展速度が増加するが,その後再び,緩やかな進展となり最終的には22〜28mm程度で停留すると評価された。」とある。また,ひび割れの深さと時間については,ひび割れの深さが20ミリメートルに達するのに9年〜25年を要することを示す評価を行っている。
 こうした評価の信頼性については,深さが最大で40ミリメートルに及んだ福島第一原発2号機のひび割れにおいて検証されなければならないが,福島第一原発2号機のひび割れの進展評価結果は公表されていない。

■地震を想定しての必要最小肉厚の評価
 東京電力はさらに,ひび割れは,約28mmで停留するとの評価に照らして,地震を想定した必要最小肉厚の評価を行っており,福島第二原発におけるS2地震を想定した発生応力から,必要最小肉厚を8.7ミリメートルであるとしている。シュラウドの肉厚は50.8ミリメートルであるので,ひび割れが評価上は最大値である約28ミリメートルとしても,約22ミリメートルの肉厚が確保され,これが必要最小肉厚を上回ることから,「当該リングのひびは,約28mm程度で停留すると評価され,この場合においても必要な肉厚が確保されていることから強度的な問題はない」と結論している。

■検査できない範囲
 定期点検におけるシュラウドの応力腐食割れの点検は,目視検査によって行われる。ひび割れが見つかった福島第二原発3号機の目視点検記録が東京電力の報告書にあるが,ここから,目視検査は,応力腐食割れの発生の可能性がある溶接部近傍のすべてで行うことができるわけではなく,逆に,広い範囲で検査ができないことが明らかとなる。
 例えば,上部リングと上部胴溶接部の内側は,HPCSスパージャが邪魔をして,検査が可能な範囲はわずか3%だけ,上部胴と中間部リング溶接部は,上部格子板とLPCI(低圧注入系)注入板が邪魔をして検査が可能な範囲は20%だけ,といった具合である。福島第二原発3号機でひび割れが見つかったのは,中間部胴と下部リング溶接部の外側であるが,この部分も検査が可能なのは,ジェットポンプの部分を除いた70%である。同じ溶接部の内側では,炉心支持板のために検査率が0%,すなわち検査不可という状態である。もし,ひび割れの発生が外側ではなく,同じ箇所の内側であったら,これを発見することはできないことになる。
 縦方向の溶接部についても,内側では10%,33%といった箇所があり,外側でも50%しか検査できない箇所が存在する。

■柏崎刈羽原発3号機の検査の範囲
 上記の報告書にあるのは,ひび割れの発見を受けて行われた検査の記録であり,特に入念な検査が行われているはずで,それでもこの程度であった。福島第二原発3号機のひび割れ発見後もを受けて,経済産業省は,応力腐食割れが発生する可能性のある原子炉のシュラウドについて溶接部の検査を行うよう指示を出し,実行された。今回,柏崎刈羽原発3号機でひび割れが見つかったのも,この検査の一環であったが,その範囲は,報告にあるものよりも狭く,柏崎刈羽原発3号機の場合,外側4箇所,内側1箇所で,リング部でのひび割れを想定しただけである。海外の事例では,胴本体の上下方向の溶接部に,内側からも外側からもひび割れが入っていたという米国ナインマイルポイント原発の例もあるが,これに対応した検査にはなっていない。しかも,当初の予定では,今回の定期検査では外側だけを確認して,内側は次回回しであった。つまり東京電力は,福島第二原発3号機のシュラウドひび割れを受けての確認作業を終えない状態で,プルサーマルを始めようとしていた。

■検査周期の問題
 シュラウドの点検は定期点検ごとに行われているが,毎回の検査で検査可能なすべての溶接部分を点検するわけではない。1回の検査で全体の約10%程度の検査を行い,各点検箇所については10年毎に検査するようになっている。福島第二原発3号機のひび割れ発見後も,10年周期の体制を変えていない。
 よってその10年の間に応力腐食割れが発生し進展したものについては,発見されずに原発の運転が行われることになる。東京電力が行った評価では,応力腐食割れの深さが20ミリメートルに進展するまでには,速くても9年かかることになり,こうした評価が,検査の周期は10年程度でよいということの論拠になっているのかもしれない。しかしこうした評価には幅があり,信頼性が十分にあるとは言えない。福島第一原発2号機の応力腐食割れについては,深さが約40ミリメートルまで進展していたが,なぜこのように深くなる前に検査によって発見されなかったのかも明らかではない。

■目視検査では発見されないひび割れ
 福島第二原発3号機の応力腐食割れのひび割れは深さが最大で約26ミリメートルに及んでいる。東京電力のひび割れの進展評価によると,最も速い評価でも10年以上かけて進展したことになる。一方で次のような事実がある。応力腐食割れが発見されたのは,「第11回定期検査中の平成13年7月6日,炉内清掃状況のビデオ確認を行っていたところ,ひびらしきものが見えたことから水中テレビカメラで確認した結果」である。すなわち発見は,この部位の正式な点検によるものではなかった。ではこの部位の正式な目視点検が行われたのはいつであったかというと,平成9年の定期点検時であった。すなわち発見から4年前である。このときにはひび割れは発見されなかった。
 東京電力の評価に従えば,平成9年の検査時には,すでに応力腐食割れによるひび割れが存在しており,目視検査によってはこれを発見することができなかったことになる。目視検査は,炉内に圧力がかかっていない状況,すなわちひび割れの傷口が開いておらず閉じている状況で行われる。そのために,ひび割れの表面が微少であれば,内部でひび割れが進展している場合でも,目視検査では発見されない可能性は十分にある。

■シュラウドの分離
 シュラウドの全周に応力腐食割れによるひび割れが存在し,ここに想定東海地震が襲った場合に,どのような事態が起こるだろうか。
 米国の原子力規制当局である米国原子力規制委員会(NRC)は,1994年の文書で,シュラウドの360°のひび割れが貫通した際の安全評価を行っている。この中でNRCは,「シュラウドにおける円周360度におけるシュラウドの分断という仮定における安全影響を評価」しているが,「最も憂慮される事故のシナリオは,主蒸気管の破断,再循環系の破断,そして地震である。」とあるように,全周にわたるひび割れが,地震により,シュラウドの分離に至る可能性があることを確認している。
 また,NRCの文書は,「シュラウドの上部では,炉心中の圧力の違いによる離れているシュラウドが引き上げられる」「分断によってできたギャップをバイパスして通る流れは,稼動中に運転員が観察できるような,出力と流量の不釣合いの原因となるのに十分である。」としている。出力と流量のミスマッチは冷却能力の不全をもたらすし,シュラウドが持ち上がり,それが横方向にずれるような場合には,制御棒の挿入に支障をきたす恐れが生じる。最悪の場合,燃料棒や制御棒の著しい破損に端を発する放射能放出事故が起こり得る。
 日本では,シュラウドの分離を想定した安全評価は行われておらず,シュラウドの分離や分離したシュラウドが持ち上がるような事態が,地震によって発生した場合には,いったいどのような事態が起こりうるのかは,検討されていない。

■シュラウドの応力腐食割れと冷却材喪失事故
 再循環系配管の破断による冷却材喪失事故は,安全評価の対象となっている事故であり,債務者による安全評価によると,ECCS等の安全器機を用いることにより,事故は炉心溶融に至ることなく収拾する。ところが,このような事故が,シュラウドに応力腐食割れによるひび割れが存在する状態で発生したような場合には,この限りでは収まらない。
 NRCの文書に,「炉心シュラウド下部における割れに関して最も憂慮される点は,再循環系の破断の想定である。というのも,下部溶接部(H4,H5)にとって,円周上のひび割れによる負荷が十分大きければ,シュラウドで横方向にずれもしくは傾きを引き起こし,制御棒挿入能力に影響を及ぼしたり,シュラウドや配管破断を抜ける漏れの原因となる割れ開口部の拡大につながる恐れがある。もしこの漏れが大きければ,冷却を適切に保つ能力や,非常用液体制御系を備えた原子炉の停止能力に影響を及ぼすこともありえる。」とあるように,再循環系配管破断が,シュラウドの分離が同時に発生するような場合には,冷却材喪失が安全機器の能力を超え,事故が安全評価を超えるような重大事故に至る恐れがある。


<柏崎刈羽原発3号機のシュラウドひび割れの問題>
■応力腐食割れの発生,進展は避けられない
…見つかったひび割れは,いずれは福島第二原発3号機と同様に全周に至る。
■検査の限界
…点検では見ていない箇所がある。格子板をはずしての調査はするのか。垂直の溶接部は見るのか。これまでの検査対象は,リング部だけで,胴本体は無視している。米国ナインマイルポイント原発1号炉では,胴本体の垂直の溶接部にもひび割れは見つかっている。しかも内側も外側も。検査範囲を広げるというが,応力腐食割れが生じる可能性のある箇所をすべて見ることはできない。目視検査の限界。
■ひび割れを止める対策などない
…タイロッドは,ひび割れが貫通した際に,シュラウドの分離を防ぐだけ。ひび割れを食い止めることはできない。
■シュラウド分離,脱落は想定すらしていない。
■ひび割れた原発にプルサーマルなどもってのほか。


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