シュラウドと維持基準1・2・3

阪上 武 sakagami,takeshi
ふくろうの会(福島老朽原発を考える会)


シュラウドと維持基準1(02/10/28)

世界初のシュラウド維持基準

■維持基準は「30年間導入をさぼってきた」というのは本当か?
 維持基準について「アメリカでは30年前から導入されていたものであり,日本では,これの導入をさぼってきた。守ることができない基準のために不正をせざるを得なかったんだ,だから今導入するのは当たり前なんだ」という論調があります。これには大きなウソがあるように思います。

・30年前に日本は,維持基準の導入をさぼったのではなく,意図的に導入しなかった。「新品同様」を求める技術基準を(表向きは)堅持した。
・90年代以降シュラウドのひび割れが顕著になり,従来材料は交換を決めた。
・シュラウドは応力腐食割れ対策材料にもひび割れが相次ぐに事態に至り,経済的に交換が困難であることから,ひび割れを放置しての運転が必要となった。
・シュラウドの全周に及ぶひび割れについては,アメリカの維持基準にも評価方法はない。一方で日本では,東電事件後も,全周に及ぶひび割れが続発している。
・今,日本は世界に先駆けて,シュラウド用の維持基準を性急に導入しようとしている。

 事実にあたると,電力会社が維持基準を必要としているのは,90年代以降続発したシュラウドのひび割れをどうしようもできなくなったため,という別の結論が得られます。

■世界初のシュラウド維持基準を盛り込んだ日本版維持基準
 日本機械学会を動かして,日本版維持基準の作成に奔走する小林英男氏は,近藤委員会の第1回会合で次のような発言を自慢げにしています。

(ASMEの会議で)「ぜひ日本のシュラウドとシュラウドサポートの欠陥評価の話をしろということで、しゃべってきました。アメリカにはこの規格はまだありません。だから、日本が世界で最初だと思うんです。アメリカでも非常にこれを評価してくれて、ASMEもすぐに日本のものを参考にして規格をつくろうと、そういうディスカッションになりました。」

 ASME(アスメ)というのはアメリカの機械学会のことで,30年前に維持基準を作ったところです。これを参考に日本版維持基準を作ろうとしているのですが,シュラウドについては,日本が最初であり,逆にアメリカが,日本のものを参考にしようとしていると言うのです。話が全く逆です。「日本のもの」とあるのは,日本機械学会による「維持規格2002」で,今「活用すべき民間規格」として国の技術基準の中に組み入れようとしているものです。

■維持基準は意図的に導入しなかった
 30年前にアメリカで維持基準が導入された時期に,国はLBBの導入の是非というテーマでこの問題を議論していた形跡があります。しかし結果的には維持基準の導入を見送っています。導入をさぼったのではなくて,意図的に導入しなかったのです。メーカー,電力,国それぞれの思惑があったのでしょうが,当時問題になっていた配管での応力腐食割れについては,ほぼ全ての配管を,応力腐食割れが起こりにくい対策材に取り替えるという大がかりな工事を行って「新品同様」の堅持に努めています。ただし,この時期には,見つかっていた傷を隠して,交換までは放置して運転するというのは,日常的に行われていたのかもしれません。

■90年代から続出したシュラウドのひび割れ
 90年代になって,当時交換ができなかったシュラウドに応力腐食割れによるひび割れが続出しました。今回東電不正事件で最初に問題になった29件のうちの多くが94年以降に見つかったシュラウドのひび割れの隠蔽でした。これは,修理や交換ができず,「新品同様」の原則が守れないことから,不正せざるを得なかったということでしょう。ただし97年以降は,応力腐食割れ対策が施されていない従来の材料については,(浜岡原発1号機を除く)全てを交換することを決めたことから,シュラウドのひび割れ問題は解決するはずでした。これで収まっていれば,今回不正が発覚することはなかったでしょう。

■応力腐食割れ対策材料でもひび割れ
 事はこれで収まらず,応力腐食割れが起こりにくいはずの低炭素ステンレス鋼(SUS316L,SUS304L)にもひび割れが各所で発生し,1997年には,福島第二原発3号機で,全周に及ぶひび割れが見つかりました。「新品同様」を貫くためには,こうした炉のシュラウドも交換しなければなりませんが,そうなると,最新鋭機も含めたほとんど全ての炉のシュラウドに手をつけなければなりません。自由化と景気低迷でコストダウンを迫られる折り,それはできない,となるとひび割れを放置しての運転をするしかありません。

■全周に及ぶひび割れについての評価方法の規定はない
 シュラウドのひび割れの安全評価について,東電は,ひびが短いものについては,ASMEにある方法を用い,1年間に11mm進展するとの前提で10年後のひび割れの長さを求め,これが貫通したとの前提で耐震性を評価しています。ところがこの手法は,全周にわたるひび割れには使えません。全周に貫通の前提ではシュラウドは分離してしまいます。これについて東電は,ひび割れが全周に及ぶ場合には,深さ方向の進展評価を行うことになり,福島第二原発3号機では,ひび割れはある程度の深さで停留し,停留した時点での耐震安全性を確認した,と述べています。全周のひび割れには個別の評価が必要で,評価方法についての規定はありません。

■全周に及ぶひび割れが頻発
 不正発覚後の調査により,応力腐食割れ対策材料では,単なるひび割れだけでなく,リング部に全周に及ぶ(及ぶ可能性があるもの)ものが頻発しています。

○全周のひび割れが確認されているもの
・福島第二原発3号機下部リング部(1997年発見2001年公表)
・柏崎刈羽原発3号機下部リング部(2002年8月)
・女川原発1号機下部リング(2002年9月)
・浜岡原発4号機下部リング(2002年9月)

○ひび割れが全周に及ぶ可能性があるもの
・福島第二原発2号機中間部リング部(2002年10月)
・柏崎刈羽原発3号機サポートリング部(2002年9月)

■日本版維持基準は世界で初めての新しい欠陥容認基準
 まとめると,シュラウドの対策材料でのひび割れにより,これまでなくてもよいとしていた維持基準が必要となり,全周に及ぶひび割れの多発により,アメリカの基準の輸入だけでは事足りずに,世界で初めてシュラウドに深さ方向の評価を盛り込んだ維持基準が必要となった,ということになります。シュラウドについては,今導入が
目論まれている日本版維持基準は,世界で初めての新しい欠陥容認基準です。
 すると,規格にできるほどの知見の蓄積があるのか?といったことがすぐに問題になるでしょう。応力腐食割れ対策材料のシュラウドのひび割れについては,実機での事例が1997年以降と,極々最近のことです。1997年と言えば,30年どころか,わずか5年しか経っていません。放射線に晒される実機でのひび割れの進展評価が確実にできるのでしょうか。
 いずれにしろ,日本版維持基準は,シュラウドでのひび割れの頻発という事態から必要にせまられて慌てて作ったものという感が否めません。

以上


シュラウドと維持基準2(02/10/31)

今回は「維持基準どころではない」という問題です。

 東電は不正を行ったことは謝罪しましたが,安全上の問題はなかったとし,この点については一切謝っていません。しかし,その根拠として示した安全評価は全て,部分的なひび割れについてのものです。シュラウド交換前に,全周に渡るひび割れを隠した上で,これを放置しての運転が行われていたことについては,安全上問題がなかったかどうかは一切明らかにされておらず,東電や保安院の報告では誰も悪くないことになっています。しかし,実際には,極めて危険な運転が行われていた可能性があります。その一例が福島第一原発3号機の1996年から1997年までの1年間の運転です。こうしたものの真相解明なくして,どうして再発防止策が語れるのでしょうか。維持基準の遙か以前の問題です。

さかがみ 2002/10/30

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東電の最も危険な運転(福島第一原発3号機 1996-1997)

■1994年には全周に渡るひび割れが見つかっていた
 東電の不正事件で当初発表された29件の中で,最も危険と思われるのが,福島第一原発3号機の1996年から1997年にかけての運転です。保安院の中間報告から,福島第一原発のシュラウドに生じた2つのひび割れの経過をたどってみます。まず1994-95年です。

「1994年9月〜1995年2月(H6.9〜H7.2)に第14回定期検査が行われた際、東京電力からシュラウドの点検を受託したGE社は、H1、H2、H4、H6の溶接線にインディケーションを発見し、発電所保修部門に報告した。UT検査(超音波探傷検査)で確認したところ、H6近傍のひび割れ及びインディケーションがほぼ全周にわたって観測された」「いずれも最大深さは22〜26mm以下であった。このため、発電所保修部門では、いずれも国への報告や修理の必要のない程度のものであると判断し、対策を講じなかった。」

 すでにH6(シュラウド下部リング部)のひび割れが全周に及んでいます。同じ時期に隣の2号機のシュラウドでは,全周に及ぶひび割れがH3(シュラウド中間部リング部)という箇所に発見され,こちらの方は,公表した上で,ブラケットという補助金具をあてる修理を行っています。ところが3号機では何の対策も講じていません。この時点で2つの問題が生じます。

@ 全周にわたるひび割れを放置しての運転を認めた根拠は何か?
 東電が不正事件の発表の際に示した安全評価は,ASMEの規格にある方法にしたがったもので,1994年の当時もGEはこれを用いていたようです。しかし,この方法は,亀裂の貫通を想定するので,部分的なひび割れの評価には使えても,全周に及ぶひび割れには適用できません。東電は当時,何を根拠にして,全周に及ぶひび割れを放置しての運転が問題ないと判断したのでしょうか?

A 隣の2号機は修理したのに3号機を修理しなかったのはなぜか?
 2号機については,「強度を確保する」との理由で修理を行っています。これは,修理を行わなければ必要な強度が確保されない可能性を認めていることを意味します。保安院の報告からは,2号機は全周のひび割れの深さが50mmを超えていた(東電の当時の報告書ではなぜか41mmとなっている)が,3号機は最大26mmで浅かったからとも読めます。しかし,26mmといえば,このシュラウドの最小肉厚38mmの70%に達しており,やがては2号機のレベルに至ることは明らかです。
 一つ思い当たるのが,2号機で行ったブラケットという修理方法が,H3の中間部リングにしか使えない修理方法であるということです。H6については,当時修理方法がなく,そのために放置したのではないかという疑いが頭をもたげます。


■2周にわたるひび割れを放置しての無謀な運転
 1995-1996年の定期検査では,全周に及ぶひび割れが,2周に渡っており,深さも30mm程度に成長していることが確認されます。

「1995年12月〜1996年4月(H7.12〜H8.4)に第15回定期検査が行われた際、再びシュラウドの点検作業を担当したGE社は94年の測定データを再評価した上で、UT検査を行いH6aとH7に全周にわたるひび割れ(最大深さ30mm程度)があることを発電所保修部門に報告した。」

 これでいよいよ公表して停止か,と思いきや,なんとまた「異常なし」として運転を継続してしまいます。

「GE社は、次回定期検査までは運転を継続しても支障はないという評価を行ったが、この時点でも発電所は、特段の対策をせず、また、国への報告も行わなかった。なお、この回の検査結果についても、英語版報告書には記載があるひび割れにつき、日本語版報告書では「異常なし」と記載されている。」

 GEも「次回定期検査まで」という限定をつけての運転容認です。そして,1997年に,東電は,この2周にわたるひび割れを隠したまま,「予防保全のため」という名目で,シュラウドの交換を行います。

「1997年、東京電力は「予防保全のためにシュラウド取替を行う」との理由で6月24日付けで電気事業法第47条の工事計画認可を申請し、7月11日同認可を取得の上、シュラウドを交換した。その際、東京電力ではシュラウドサポート部にひび割れを発見し、通常の補修工事として修理を行った。」


■東電自身の評価方法にしたがっても安全性は確認されない
 問題にしたいのは,この1996年に定期検査を終えてから1997年にシュラウドを交換するまでの1年間の運転です。シュラウドのひび割れの状況を整理すると

・シュラウド下部リング部(H6a)とサポートリング部(H7)にいずれも全周に及ぶひび割れがあった。
・最大深さは30mm程度であった。

 となります。当時,何を根拠にこれを放置しての運転を認めたのかが全く疑問ですが,この1年間の運転は,現在の見地からしても,とても安全性が確認されるような運転ではない可能性があります。

 東電は2001年8月に,福島第二原発3号機の全周にわたるひび割れについて,以下のような評価を行っています。

・ひび割れの進展評価を行うと,深さは約28mmで進展は停留する。
・地震を想定して,シュラウドの必要な最小肉厚を計算すると約9mmである。
・シュラウドの厚みは薄いところでも51mmあり,よって,ひび割れが進展しても必要な最小肉厚は確保される。(ひび割れは,厚みがもっとあるリング部で発生したが,東電は保守的に,すぐ近傍の厚みがもっとも薄い部分で評価している。)

 こうした評価方法には,必要最小肉厚の計算の際にひび割れの存在を無視している等の数々の問題はあるのですが,ここでは「東電の行った評価方法」に従って,福島第一原発3号機のケースを検証してみます。

・ひび割れの深さは,30mm程度に及んでいたと。運転中にさらに進展が進んでいた可能性がある。同じ材料でできた隣の2号機は50mmを超えていた。
・福島第一原発3号機のシュラウドの厚みは薄いところでは38mmしかない。東電の評価方法に従えば,この厚みで評価しなければならない。
・すると残ったシュラウドの厚みは,8mm以下ということになる。これは,地震を想定しての最小肉厚に匹敵するか,それを下回るのではないか。

 東電の評価方法にしたがっても,この当時の運転は,無謀としかいえないものだと思います。


■交換を巡る思惑により無謀な運転が行われた?
 東電が無謀な運転に踏み切った背景には,「シュラウド交換の決断」があったと思われます。1996年の段階で次のような思惑があったのではないでしょうか。

・シュラウド下部リング部(H6a)やサポートリング部(H7)の全周にわたるひび割れは,当時の修理法(ブラケット)が使えない部分である。これを公表してしまえば,運転ができなくなり,廃炉となってしまう。
・そこで当時東芝が技術開発を進めていた,シュラウド交換を決断した。従来の材料であるSUS304を応力腐食割れの起こりにくいとされるSUS316Lのものにすることに決めた。
・交換はSUS304のシュラウドすべてで行うことにして,2号機の公表したひび割れ以外はすべて隠蔽し,今はひび割れはないけど,将来起こるかもしれないから,予防保全のため,との理由をこじつけた。

 交換を決めたし,ひび割れは隠蔽したいから,何とか1年間だけ…。東電の思惑により,綱渡りのような運転が行われたのであれば,これはもう絶対に犯罪行為です。


■事の真相を明らかにせよ!
 東電は以下の事を明らかにすべきでしょう。

@ 1995年の段階でH6の全周に及ぶひび割れを放置しての運転を認めた根拠。当時行った安全評価のデータ。誰がその決定に係わったのか。隠蔽と運転継続の動機は何であったのか。

A 1996年の段階でH6aとH7の2つの全周に及ぶひび割れを放置しての運転を認めた根拠。当時行った安全評価のデータ。誰がその決定に係わったのか。隠蔽と運転継続の動機は何であったのか。

 東電は,安全を脅かす運転を行ったことを謝罪すべきであり,当時の事の真相が徹底的に究明されなければなりません。これなくして再発防止策など,議論しようがないと思います。維持基準の遙か以前の問題です。

以上


シュラウドと維持基準3(02/11/24)

「新品同様」の原則などはじめからないと言い出した保安院

 維持基準法案を追いかけている方は是非読んで下さい。

 11月20日に行われた保安院との交渉で,保安院は驚くべき解釈を披露しました。「新品同様」の原則を定めた技術基準は,そもそも運転中には適用されず,これを馬鹿正直に適用していた東電が間違っていたのだというものです。ひび割れを放置しての運転はもともと許されていたことにして,維持基準の整備前に,ひび割れ原発の運転再開を実現し,さらにひび割れの容認を,技術基準の適用の仕方の解釈を変えるだけで済ませてしまおうというものです。

■保安院の「新」解釈「新品同様」の原則などはじめからなかった」

 交渉で,今回の維持基準導入と「告示501号」との関係を聞きました。告示501号は,「発電用原子力設備に関する構造等の技術基準(昭和五十五年通産省令告示五百一号)」という,法令に組み込まれている技術基準です。この中には,超音波探傷試験や渦流探傷試験等の非破壊検査に合格することを要求する条項があり,ひび割れ等の欠陥を放置したままの運転を許していません。東電が,「わずかな傷が生じても,技術基準の観点からは問題となりかねない。」*1と述べているのは,この告示501号を指しています。これをそのままにして維持基準の導入などできないはずです。
 ところが保安院は,質問に対し,「告示501号ですか?あれは関係ありませんよ」と言うのです。どういう事か?と聞くと,告示501号は,設計時及び建設時に適用される材料についての技術基準であり,運転中のものには適用されない,と。東電は適用しているではないか?と聞くと,あれは東電が勝手にそうしていただけで,その必要はなかった,その辺のことは中間報告に書いてある,と。では何を適用するのか?と聞くと,それは定期検査について定めた「定期検査要領書」だ,と。後で確認すると,中間報告には,「現行技術基準の設備の設計時,建設時及び使用時への適用ルールが不明確であったため,例えば,設計時及び建設時のみに適用される材料に係る技術基準を,事業者が設備の使用時についても適用しなければならないという判断を招いたこと」*2という記述がありました。ここにある「材料に係る技術基準」が告示501号だというのでしょう。

■告示501号を無力化しひび割れ原発の運転再開を急ぐため

 告示501号を馬鹿正直に守ろうとし,ひび割れは許されないと勝手に思いこんで不正をした東電が馬鹿をしたのであって,保安院は,はじめからひび割れを許さなかったわけではない,という理屈です。このような説明を受けたのははじめてで,びっくり仰天してしまいました。
 思い当たることが2つあります。一つは,平沼経済産業大臣が,衆議院本会議で「維持基準の導入は,…従来から求められておりました,安全性の水準を引き下げるものではなくて,また不正点検記録などの不正を正当化するものではございません。」と答弁していることです。ひび割れを許さない告示501号を現在の安全性の水準にしてしまうと,ひび割れの放置をゆるす維持基準が,安全性の水準を低下させることは明確であり,このような答弁はできないはずです。
 もう一つは,国が進めようとしている維持基準の法制化の作業が終わり,実質的に動き出すのにこれから1年近くかかることから,現在,シュラウドと再循環系配管のひび割れが見つかって止まっている原子炉については,運転が可能かどうかの評価を個別に行って動かしてしまおうとしていることです。既に小委員会が設置され,検討にとりかかっています。しかし,どんなに安全だという評価を下したとしても,告示501号がある限りは,ひび割れを放置しての運転は違法状態であり,運転再開などできないはずです。
 2つのことは,保安院が告示501号を無力化しようとしており,逆にそうしなければ事が進まないことを示しています。国は将来的には,告示501号をなくしてしまって,民間規格を参考にするというアメリカのやりかたを導入するつもりでいます。しかしそれには時間がかかります。そこで苦肉の策として編み出したのが,「告示501号は,はじめから設計時及び建設時のみに適用されるものだった」という「新」解釈だったのでしょう。この策により,ひび割れ原発の運転再開を急ぐだけでなく,ひび割れの容認という最大難所を,国会の審議もなんにもなしに,解釈の変更だけで乗り切ろうとしているのです。

■保安院が東電にひび割れ容認を迫る??

 ところで「告示501号ははじめから運転時には適用しないものだった」というのは本当でしょうか。これは以下のような点からも大変疑わしいものです。
・法令の中にはそのような位置づけは一切ない。
・保安院が対案として示した「定期検査要領書」にも,非破壊検査の一部で告示501号を適用することが明記されている。
・保安院の中間報告の別紙に,東電の個々の不正案件についての考察があり,保安院は,5つのケースについて,電気事業法39条(技術基準適合義務条項)に違反の疑いがあると指摘しているが,ここでは明らかに,告示501号(超音波探傷試験に合格したか否か)の判断基準が用いられている。
 東電の報告書には,不正の背景として,「国に対するトラブル報告を行うと,発電所の停止期間が予定より長くなってしまうという不安感が強かった。」*3とあり,東電は,東電交渉において,そのような事例が具体的にあったことを明らかにしています。ここからも,これまで国は,ひび割れに対しては修理を要求するという,告示501号に従った対処をしていたことが明らかになります。
 それに,「維持基準の導入については,電力側が導入をせまったきたものを,国が国民からの風当たりを恐れて,やらずにいた」と言われてきた話が,いったい何だったのか?ということになります。今保安院は,曲がりなりにも「新品同様」の建前は堅持している東電に対し,解釈を変更し,昔からそうであったかのように振る舞って,ひび割れ容認を迫っているのです。構図が全く逆転しています。これでは,どちらがどちらを「規制」しているのか,さっぱりわかりません。

■怒る地元「新品同様」の約束はどうした!

 「新品同様」の原則を平然とかなぐり捨てようとしている国に対し,地元からは当然のごとく,怒りの声が上がっています。福島民友紙の社説がその声を代表しています。

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−トラブル隠し まず虚構への責任を明確に−

 「なぜ」が解明されなければ、再発防止などできるはずがない。国と事業者はそれに気付くべきだ。政府が今国会に提出した原子炉等規制法改正案、電気事業法改正案などの「再発防止策」は、その意味で再発防止の効力をほとんど持っていないと言わねばならない。

…新品同様の整備など無理だ、といまさら言うのなら、国と事業者のこれまでの虚偽の責任をまず明確にするべきだ。 日本の原子力の安全規制は「世界標準をはるかに上回る世界一厳しいものであり、つねに新品同様に整備してあるから安全なのだ」と大いばりで「説明」してきたのは「国と事業者」自身だった。その虚構性の責任をまず明確化してもらいたい。□福島民友社説 2002年11月22日[抜粋]

以上

*1「当社原子力発電所の点検・補修作業に係るGE社指摘事項に関する調査報告書」P139平成14年9月東京電力)

*2「原子力発電所における自主点検作業記録の不正等の問題についての中間報告」P7平成14年10月1日保安院

*3*1と同じP137


東京電力の不正事件などについて(国にも問題あり)

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