10 お腹が痛い

 
子どもに限らず,おなかが痛いという症状はなかなか我慢ができませんので,病院を受診する最も多い理由の一つです.一口に腹痛といっても,その程度や性質,場所などは様々です.どのような腹痛かという詳しい情報が,正しい診断と治療のカギとなりますので,できるだけ詳しく説明していただけると助かります.特に言葉が話せない赤ちゃんの場合,泣いている原因が腹痛かどうかさえわかりませんから,親の情報が何よりの手がかりとなります.荻田は虫垂炎の誤診が度々あり,苦手な分野です,どうしても検査が多くなります.
でも殆どは、うんちです。
@腹痛以外の症状はありますか?
腹痛と関係する症状で多いものは,嘔吐,下痢,血便,便秘,発熱,食欲の低下などです.嘔吐の回数,吐いたものはどんなものか,便の状態(何日間の便秘,不消化便,泥状便,水様便,便中の粘液や血液混入の有無など),それぞれについてもできるだけ詳しい情報が必要です.例えば,嘔吐,下痢,発熱,腹痛とすべてそろっていたら,サルモネラ.キャンピロバクター,病原性大腸菌などの細菌性腸炎の可能性が高くなります.ロタウイルス,アデノウイルス,ノロウイルスのウイルス性腸炎でもあります.発熱を伴うなら, 急性虫垂炎(もうちょう)や腸間膜リンパ節炎 (お腹の中のリンパ節が腫れて痛む病気)の可能性があります.血便を伴うなら,胃・十二指腸潰瘍や稀に 潰瘍性大腸炎(大腸に慢性的な潰瘍と炎症を起こす病気),メッケル憩室炎(小腸の壁にメッケル憩室という袋がある人が稀にあり,ここが炎症を起こす病気)などのことがあります.嘔吐を伴うなら 自家中毒症、紫斑(紫のあざ)を伴えば、血管性紫斑病(全身の細い血管が炎症を起こす病気)、黄疸を伴えば、総胆管拡張症(生まれつき、胆嚢や総胆管が拡張して、胆汁の流れが悪くなっている病気)や肝炎 などが考えられます。
A腹痛と食事との関係はどうですか?
食前に痛むなら胃・十二指腸潰瘍、食後に痛むなら 食物アレルギー胆嚢炎膵炎などの可能性があります。生ものなどを食べた数時間後から腹痛が始まれば、食中毒の可能性があります。
B腹痛の程度はどうですか?
うんうんうなって我慢できないほど痛み、お腹がカチカチに張っているなら、 急性腹症といって、例えば、急性虫垂炎、腸重積、腸捻転、卵巣や睾丸捻転、ヘルニア(脱腸)の嵌頓(出て元に戻らなくらること)などのように、すぐに手術が必要なことがあります。
C腹痛はいつから始まりましたか?
例えば、何ヶ月も前から痛んでいる(慢性の腹痛)のなら、心因性腹痛、胃・十二指腸潰瘍、慢性の便秘などです。まれに、総胆管拡張症、水腎症などの先天性の病気もあります。数時間前から痛む(急性の腹痛)のなら便秘(排便障害)、急性虫垂炎、胃腸炎、腸重積などです。
D腹痛の頻度と持続時間はどれくらいですか?
一週間に一回程度ですか、あるいは、ほぼ毎日ですか?2〜3分で治まりますか、それとも何時間も続きますか?頻度が少なく、すぐに治まる腹痛は、あまり大きな病気はないといえます。しかし、体重の減少を伴っていると要注意です。
E腹痛の場所はどこですか?
お腹のどの部分が痛むのかも重要です。アプレイの法則というのがありますが、これは腹痛の位置がおへそから離れれば離れるほど、なにか病気がある可能性が高いというものです。例えば、右下腹部痛で急性虫垂炎、右上腹部痛で胆石、胆嚢炎や肝炎、上腹部痛で胃・十二指腸潰瘍、腰背部痛で尿路結石や水腎症というふうにです。逆にいえば、おへそのまわりの腹痛は、病気であることはまれで、便秘や心因性の腹痛であることが多いのです。
【腹痛についての検査】
急性虫垂炎や細菌性腸炎を疑った場合には、血液をとって白血球数やCRP、血沈などの炎症反応を調べます。細菌性腸炎の疑いがあれば、さらに 便中の血液や膿を調べたり、便を培養してどんな細菌かを調べます。胆嚢炎や肝炎、膵炎等を疑ったら、血液検査で肝臓、胆嚢、膵臓の状態を調べます。(肝臓や胆嚢が悪いと、AST、ALT、γ-GTP、ALPなどの酵素が増え、膵臓が悪いと、アミラーゼ、リパーゼなどの酵素が増えています。)痛みが激しく、腸閉塞や尿路結石を疑ったら、お腹のレントゲン写真をとって、腸内のガスの分布や尿路の石の有無を見ます。 超音波検査は手軽にできて体に害がなく、肝臓、胆嚢、膵臓、脾臓、腎臓などの様子がよくわかり、腸重積の診断にも威力を発揮します。また、腸重積を疑ったら 浣腸して便の色を確かめます。イチゴジャム状の血便なら疑いは濃厚です。腎盂腎炎などの尿路感染症や尿路結石でも腹痛が起きますので、尿検査も必要です。場合によっては胃や腸を内視鏡で覗いたりお腹のCTをとったりすることもあります。
【こどもの腹痛で最も多い原因】
腹痛のこどもが来ると、まず、上に述べたように詳しく様子をきいたり、必要ならば検査をして、どんな病気か考えていくのですが、一番多いケースは便秘による腹痛 です。お腹を触ると固い便が触れることもありますが、特に何も触れない場合もあります。毎日便が出ている場合でも、便がお腹にたまっている場合があるのです。ですから便秘というよりは排便障害といったほうがぴったりくるでしょうか。こどもはまだ腸の力が弱く、たまった便をすっきり全部出しきれないことがよくあります。腸が収縮して、便を押し出そうとするのですが、便がなかなか動かないために、おなかがキューと締め付けられるように痛むのです。腹痛以外に特に症状が無く、時々キューと痛む腹痛は、まず、この便秘を疑って浣腸をします。浣腸で便を出してあげるだけで、うそのように腹痛が治ってしまいます。次に多いのは、急性胃腸炎による腹痛で、抗生剤や整腸剤が必要です。急性虫垂炎の初期もなかなかわかりにくいことがあります。最初はおへそのあたりから痛み始めて、だんだん右下腹部が痛むようになってきます。熱があったり、白血球の数が多くなったり、CRPなどの炎症反応が上がっていると、さらに疑いが強くなります。