新型季節型インフルエンザを含む総括

新型インフルエンザの現状と今後の課題
新型インフルエンザで2009年-10年は大変な年でした。当初メキシコからの情報で死亡例が多く重症の鳥インフルエンザの不安をかきたてられたが、そのうち中程度という評価に代わった。鳥インフルエンザに対する対応が生きていたため鳥由来のパンデミックへの対応がそのまま実施された事で、次第に現実とのずれが表面化して過剰反応と考えられるようになった。その後は関心の低下と例年の季節性同様か、あるいはそれより軽症との評価も多い。新型は未知の部分を残しながら、流動的な状況が続いているので絶えず情報を新たにしながら油断のない対策を柔軟に立てていかなければならない。
新型インフルエンザの排除は困難:毎年流行を繰り返すインフルエンザは、天然痘のように地球上から排除できた疾患とは異なり排除が困難な疾患である。
その理由は、@症状での鑑別困難があり、集団感染が最大の特徴でその他には初期症状で特徴がない事、A潜伏期にも感染力がある事(SARSとこの点で異なる)Bワクチン効果はせいぜい40〜80%程度しかない(毎年効果が変動する)C鳥類・哺乳類の人畜共通感染症であり、発生防止も感染拡大防止も不可能等があげられる。これを理解した上で爆発的な流行を避ける事が対策の基本となる
新型インフルエンザの状況:同じフルでも国により状況が様々で海外では重症例や死亡例が多い。日本は入院数や死亡数が海外と比較して極端に低い事が注目されている。日本で被害が少ない理由がしっかり検討できれば、今後のインフルエンザ対策に貢献できる。迅速検査やタミフル・リレンザなどの薬は海外ではあまり使用されていない事、脳症は日本では多いが海外ではあまり問題になっていない事、海外では風邪症状で早期受診の習慣がないため治療開始が遅れ、そのために重症化した例が指摘されている事などは今回の流行で鮮明になった。ワクチンは流行開始に間に合わなかったが、薬剤や検査キットが極端な品薄になる事もなく流通した事で流行規模が大きい割には大混乱に至らずに済んだ。マスクの効果も有効と考えられている。
新型インフルエンザの対応:新型インフルエンザは鳥由来のみ想定されていたためにブタ由来のウイルスにも関わらず準備されてきた規制から柔軟な変更ができず不適当な対応が続いた。検疫強化や発熱外来はその効果が疑わしいまま強硬された。時間稼ぎの評価も得た。地域によっては従来はまったく連携がされていなかった医療機関同士との連絡体制がとれるようになったとプラスの評価がされたところもある。インフルエンザの流行で大半の軽症な方は問題にならないが、重症患者には十分な医療が受けられる体制が必要で、医療崩壊の進行する中で三次救急医療機関の負担は重い。医療機関の役割分担が地域で円滑に進行する事がパンデミックには重要なポイントになる。
ワクチンのトラブル:ワクチンに関しては新型の為製造開始が遅れ、ウイルス増殖能が悪いため量の確保に手間取り、任意接種にも関わらず優先順位が設定された。接種前に罹患する例も多く、供給量が入手直前まで不明の為予約も受けにくい状況が続いた。
季節性との相違:新型インフルエンザは国民の大半は免疫を持っていないと思われたが、殆どは軽症で経過されている。流行の中心は小学生中学生を中心とした子供であり、高齢者に罹患が少ない事から交差免疫の存在が考えられた。罹患者が多いことから脳症が増加(従来より年長)している。また少数ではあるがウイルス性や細菌性の肺炎、呼吸不全例、心筋炎などの重症例の存在が問題になった。ウイルス性肺炎は従来のフルでは殆ど問題にならなかったが、今回の流行では治療に難渋し直接の死因となる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)への進展もある。これは多臓器不全をきたすH5N1での肺所見と基本的に同様であり慎重な経過観察が必要となる。高齢者は罹患数が僅かではあるが、入院例では大半が死亡している点でも要注意である。従来の季節型インフルエンザと異なり基礎疾患のない健康な若者でも死亡したり、ごく一部では電撃型とも言える急激に悪化するタイプも存在する。そのため全体には中等度よりやや重いとの評価もされている。今後、感受性者特に高齢者層への波及では懸念材料とはなる。
鳥由来パンデミックのリスクは減少傾向との見方もあるが、ブタ由来のフルでは果たしてきちんとリハーサルできたかどうか今後もじっくり検証すべきである。

新型インフルエンザは幸い日本では妊婦の死は無く、40台50台の死亡が突出しておりました。

どんな特徴

インフルエンザは、ウイルス(ビールス)で流行性感冒(流感)とも言われています。インフルエンザ菌という場合は Haemophilus Influenza のことで中耳炎や肺炎の原因菌です。インフルエンザは、A香港型・Aソ連型・B型があり症状はどの型も同じで、家中皆がかかり伝染力が強いのが特徴です。インフルエンザは毎年変化しやすく以前に獲得した免疫が役に立たず通常2〜3日という短い潜伏期で病気が出ます。気管支喘息など基礎疾患のある方が重症化し易く高齢者では肺炎になりインフルエンザをきっかけとして亡くなる方もいます。インフルエンザが乳児の突然死や脳症の原因である可能性や、お亡くなりになったお子さんの調査でインフルエンザの予防注射歴がない事が判りましたがワクチンも絶対な確実性はなく、脳症にて死亡された方がおられました。2000年1-3月にインフルエンザ脳症の診断を受けた方は109人で回復が71名。死亡39人。109人中でワクチンを受けていたのは3人で内2人が死亡。脳症の原因はまだ解明されていないのが現状です。脳症の詳しいサイト
2003-04年以降はは流行が小規模と脳炎治療の発達、使用解熱薬剤の発達で脳炎者は半減しております。
どんな症状
@発熱:寒気と高熱が3日〜7日続く A全身:だるく食欲がなくなる B疼痛:頭痛・筋肉痛・関節痛 C腹痛:吐きけ・下痢
D呼吸:激しい咳・喉の痛み・鼻水
が生じます。インフルエンザの発熱は特に初めの3日間は解熱剤が効かないのが特徴です。また発熱後1日以内で意識障害が生じる脳炎
脳症が問題です。この脳炎・脳症のお子さんにインフルエンザの予防接種歴はなく5歳以下のお子さんに集中します。診断は迅速検査でA/Bを判定し症状で確認いたします。
インフルエンザの検査は正しいの?
検査の信頼性は増しました。インフルエンザの検査は熱が出て数時間で検査すると陰性例が度々あります。
治療は?
早期に特効薬を使用するのが重要ですが、普通のかぜの治療も並行して行います。十分な休養と水分補給を心がけること。小児では予防注射をし、かかっても軽く済ませるのが一番と思います。発熱期間を1日短縮する効果があります。リレンザの吸入薬のA・B型インフルエンザの特効薬と、同じくA・B型双方のインフルエンザに効果の有るタミフルの内服薬を使用します。タミフルの小児用のドライシロップはB型インフルエンザには必ずしも期待したほど有効ではありませんでした。A型インフルエンザには、シンメトレル副作用はありますが有効と考えますが、中国で市販薬にシンメトレルを使用しているため、耐性ウイルスの存在があり有効でない場合があります。鳥インフルエンザにタミフル無効例新型インフルエンザには有効です。2007年1月の流行の際、タミフルを内服された中学生、高校生の中で、異常な興奮が数多くの方で出現し、因果関係があるとの判断で、現在使用を見合わせてる状況です。動物実験でも思春期の脳にタミフルが影響を及ぼすデータが出始めています。
インフルエンザワクチンの効果
院長は毎年インフルエンザワクチンを接種します。それでもインフルエンザにかかり咳が長引きますが、熱で辛くなることはありません。現在行われている皮下注射のワクチン接種では血液中には多量の抗体が出来ますが、インフルエンザの感染経路の上気道には抗体が少ないために残念ながら感染はしますが、肺炎、脳症などの重症化阻止には役立ちます。有効率は大人で70〜80%高齢者で40%、6歳未満で30%、1歳未満は有効というデーターは十分ありません。自費扱いの予防注射です。柏崎ではインフルエンザ因果関係ありの溶血性尿毒性症候群例もあり、脳炎の発生しない年齢でも接種をお勧めします。
インフルエンザ脳症の経過例
1才11ヶ月:1/4より高熱、1/5体温42℃。うわごとのように「恐い恐い」と言い出した後昏睡。入院中痙攣なく3日後死亡。
1才8ヶ月:1/15より高熱。1/16痙攣数回生じ意識障害で入院。
2才3ヶ月:1/18より発熱。1/19体温42℃。痙攣重積で入院。幸い回復。3例の共通は、発熱2日目に脳症発症。急速に意識障害。瞳孔の不同。肝機能の悪化。
脳炎の初期症状は、@呼びかけても目を覚まさない、受け答えがはっきりしないA5分以上痙攣をおこすB幻覚をみているように意味不明の言動をする。
インフルエンザで入院した方の、1.5%が脳炎・脳症の診断になり脳炎・脳症では、死亡率が15〜30%、後遺症を残す率が25%というデータもあります。
タミフル・リレンザに続く薬
塩野義製薬が、抗インフルエンザ薬ペラミビル(商品名、ラピアクタ)を発売いたしました。点滴の治療ですので重症の方しか使えないかもしれません。
第4の薬はラニナミビル(商品名イナビル)という第一三共のお薬です。リレンザと同じ吸入ですが1回吸入で有効だそうですが、逆に言うと1回吸入して効かないと失敗に終わりますので、その面では難しい薬です。
第5の薬は、富山化学工業の「T-705」(ファビピラビル favipiravir)です。2009年10月から第V相臨床試験中(注8)。2011年には発売されるかもしれません。ノイラミニダーゼ阻害薬ではなく、RNAポリメラーゼ阻害薬ですので鳥インフルエンザ(H5N1)にも効くことが報告されています。

これまでのインフルエンザ治療薬、タミフル(オセルタミビル)もリレンザ(ザナミビル)もラピアクタ(ペラミビル)、イナビル(ラニナミビル)も、全部ノイラミニダーゼ阻害薬です。簡単に言いますと、ノイラミニダーゼ阻害薬とは、インフルエンザウイルスが細胞に感染して細胞内で増殖した後、その細胞から飛び出すのを邪魔する化合物で、それによって他の細胞へ感染が広がるのを抑えることができます。これに対して、RNAポリメラーゼ阻害薬は、そもそもウイルスが細胞内で増殖するのを邪魔するもので。メカニズム的に考えて、こちらの方が効果が直接的で強力なのは明らかです。