参考B

■「序」インフルエンザ脳炎・脳症の特殊治療法
【はじめに】
インフルエンザ流行期に急一性脳炎・脳症を併発する例があり、1998/99シーズンには約200例、1999/2000シーズンには約130例が報告されました。多くは5歳以下の乳幼児で、そのおよそ1/3は死の転帰をとり、重大な後遺症を残す例もまれではないことが判明しました。
本症は、急な発熱をみてから当日〜翌日に突然のけいれんに始まり、引き続く意識障害を主訴に救急外来へ搬送される例がほとんどで、来院時には意識障害が継続しています。頭部CTスキャンやMRIなどの画像診断が実施された例では脳浮腫を呈しており、Reye症候群、急性壊死性脳症、出血性ショック脳症などこれまで報告されているインフルエンザ関連中枢神経疾患を示唆する例は多くなく、特異な疾患カテゴリーを形成しています。血液検査所見は発症直後にはほぼ正常に近く、意識障害の持続に伴いAST/LDHの急速な上昇、血小板数の低下、血清クレアチニンやFDP-Eの上昇などを認め、DICと著しい細胞・臓器障害とが急速に進行します。さらに腎不全、肝不全など多臓器障害に至り死の転帰をとるものと思われます。ただし血中アンモニア上昇と血糖低下を認めることはなく、髄液検査でも細胞増多、蛋白上昇、糖減少などの所見もなく、「脳炎」と呼べるものは少数例に過ぎません。髄液検査にてもウイルスが分離される例はむしろ例外的で、インフルエンザ・ウイルスの中枢神経に対する直接の侵襲は否定的です。「インフルエンザ脳炎・脳症」の病因、病態の解明、治療法の確立は緊急の課題です。
一方、本症に対する有効かつ標準的な治療法はいまだ確立されておらず、模索状態というのが現状です。その予後の重大さと病状の進行の速さを考えると、治療に逡巡があってはなりません。今回、試案としてお示ししますいくつかの治療方法は、その有効性を厳密な検討により確認されたものではなく、また具体的な適応基準すら確定的なものではありません。諸施設においてたまたま経験されたり、現在考えられている病態について他の疾患から類推されて有効性が推定される治療法です。この試案は具体的な方法を中心に記載することにより、緊急時のベットサイドにおいて有用性を発揮できることを目指しています。
この試案は治療法が模索状態にある現状に対して、わずかでも効果の可能性が推察される方法を取り上げたものです。したがってインフルエンザ脳炎・脳症に罹患した患児に対し、ここに掲げた治療方法が施行されなければならない理由はなく、実際の治療はあくまでも主治医の自由な選択に任されていることは言うまでもありません。なお、もしここに取り上げた治療を御使用になられる場合には・研究会に登録戴き、ここに記載した方法に沿って治療を実施し、また結果を御報告戴ければ、より速やかに治療法の評価・確立に生かすことができます。この試案を第一歩として、より有効性の高い治療が生み出され、近い将来「治療指針」が作成されることが本研究会の願いです。
■病態の段階と治療法の選択
※インフルエンザ脳炎・脳症に対する治療法には、以下に挙げるような一般的な治療および対症的な治療が、適宜患児の状態に応じて先行して行われる。状態によっては呼吸管理を必要とし、即座にICU管理へ移行する例も少なくない。
1. 脳浮腫に対する治療
2. 抗けいれん対策
3. 感染症対策
4. 抗凝固・抗血栓療法
5. 血小板・赤血球の補充療法
※インフルエンザ脳炎・脳症は、感染から脳炎・脳症を発症し播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全に至るが、その経緯を次の4段階に分けて考えることができる。
【A】インフルエンザ脳炎・脳症の病態の推移
・ Phase I:インフルエンザ・ウイルスの感染、増殖
・ Phase II:脳炎・脳症の発症
・ Phase III:全身症状の悪化、細胞死・組織障害の進行
・ Phase IV:DIC、多臓器不全
【B】それぞれの段階で用いられる可能性のある治療法
※経過が急速に進むため治療法の選択は困難であるが、一応の目安を示す。
Phase I

抗ウイルス薬

       
Phase II γ-グロブリン大量療法 ステロイド・パルス療法
  脳低体温療法 ATIII大量療法
Phase III 血漿交換療法
Phase IV    

【治療法に関する一般的な注意点】
※ステロイドパルス療法を含むステロイド薬の使用は、抗サイトカイン療法、あるいは対活性化マクロファージ療法として有効であると思われる。ただしステロイド薬は凝固能を充進させる可能性があることに注意を要する。
※AST/LDH/CK上昇や尿中β2-ミクログロブリンの著増は、全身性炎症反応症侯群(SIRS)、ウイルス関連血球貧食症候群(VAHS)などの病態から類推すると、腫瘍壊死因子(TNFα)やインターフェロンγ(IFNγ)が著増した高サイトカイン血症による病態が推察される。このような状態に対する治療法が、インフルエンザ脳炎・脳症に対しても有効である可能性がある。
※不幸にして後遺症を残してしまった患児に対しては、早期よりリハビリテーションによる機能回復訓練を実施する。
 
■I. 抗ウイルス療法(アマンタジン) --- (横浜市立大学小児科:横田俊平)
【概略】
アマンタジンは、かつて1960年代に抗インフルエンザ効果が報告され、臨床的にも治療効果が実証されていたが、1980年代に至って再評価され、本邦でも1999年冬季よりA型インフルエンザの予防・治療に使用されるようになった。B型インフルエンザには無効である。作用機序は、感染細胞内でのウイルスの脱殻を阻害し、ウイルス増殖を抑制する。厚生省インフルエンザ脳炎・脳症研究班2000年度実施の全国調査では本症の約60%の患児に投与され、有効であったとする主治医の報告が多い。
【使用方法】
成人では1日100mgを2回に分服する。本邦における小児に対する検討は乏しいが、下表のような投与量が推奨されている。
年齢 アマンタジン量※
0〜12歳 4〜5mg/kg/日 分2、最大 100mg/日まで
13歳以降 100mg/日 分2
  ※腎機能正常者に対する投与量

  ※腎機能正常者に対する投与量
(意識障害時には、経鼻胃チューブや注腸による投与が可能です。)
【期待される治療効果】
※アマンタジンは、成人では発病後48時間以内に投与するとインフルエンザ症状を軽症化する効果があり、また発熱に関しては非投薬群に比べて1〜2日間の短縮効果がある。投薬期間は3〜5日間が標準である。
※小児ではA型インフルエンザが疑われ、アマンタジンを用いることを決断した場合には、早期に用いることが肝要である。なおアマンタジンに対する耐性ウイルスの発生が憂慮され、また、副作用もあるため使用対象はハイリスク群とすることが望ましく、健康小児への投与は避けるべきであるという意見がある。
※インフルエンザ脳炎・脳症に対しては、抗ウイルス剤以外の治療法との併用も可能である。具体的には前述の如く保険適用がなされているアマンタジンの投与を実施していく。(具体的効果については次ページ参照)
【副作用】
副作用は消化器症状と中枢神経症状が認められる。食欲低下、嘔気、不眠、集中力低下、易疲労感などが経験される。重大な副作用として抑欝状態、振戦、歩行障害などが報告されているが、短期間の投薬では副作用は少ない。
【アマンタジンの効果】
インフルエンザ脳炎・脳症に対するアマンタジンの効果は不明である。しかし他の治療法とともに、抗ウイルス療法を併用することは理に叶ったことである。1999/2000年インフルエンザ流行シーズンにおいて88例のインフルエンザ脳炎・脳症が集計されたが、本剤の治療効果を解析した結果が下表である(厚生省インフルエンザ脳炎・脳症研究班2000年度報告より)。
 
表中の(a)および(b)におけるアマンタジン使用例は(c),(d)に比較して多い。このデータは、アマンタジン投与について症例選択のバイアスがなかったと仮定すると、アマンタジン投与により軽症化が図られたと分析できる。
(補足:もしノイラミニダーゼ阻害剤を本症の治療に用いられる場合もご報告
いただければ幸いです。)
 
■II. ガンマグロブリン大量療法 --- (千葉大学小児科:黒木春郎)
【概略】
ガンマグロブリン静注は、川崎病、特発性血小板減少症、低ガンマグロブリン血症への補充療法などに行われる治療法であるが、ここでは、インフルエンザ脳症への治療法の一つとして報告された方法に関して紹介する。作用機序のひとつとして、インフルエンザ脳炎・脳症の病態とされる高サイトカイン血症に対する効果が推察される。
【適応】
インフルエンザ脳炎・脳症の発症初期に適応があると思われる。
【具体的な方法】
1) 投与方法
※γ-グロブリン溶液の輸注は、副作用を避けるため、輸液ポンプまたはインフュージョンポンプを用いて、注入速度を一定に保つことが重要である。
※輸注開始当初の15分間は0.5ml/min (0.01-0.02ml/kg/min)の速度で持続静注し、担当医は患児のベッドサイドでアナフィラキシーの有無を観察する。開始後15分後に血圧測定を行うことが望ましい。
※その後は0.1ml/minの速度で静注を持続する。
2) 他の推奨されている投与方法
※投与速度に関しては各能書では以下のようになっています。
▽帝人(ベニロン-IR):投与開始15-30分間は0.01-0.02m1/kg/min異常所見がなければその後0.03-0.06m1/kg/minまで上げて良い。
▽吉富製薬(ヴェノグロブリンーIHR):投与開始後1時間は1ml/kg/hr以下の速度で行い、不快感がなければその後投与速度を徐々に2m1/kg/hrまで上げても良い。
※なお、川崎病に対するγ-グロブリン大量療法に関する論文では、2g/kgを約10時間以上(range 8-12hr.)と報告されています。
【利点】
※小児科医にとって慣れた治療法であり、患児への侵襲も少ない。
※インフルエンザ脳炎・脳症に対する治療法として報告されている血漿交換療法、脳低体温療法などの治療法に比べて侵襲が少ない。
【欠点】
※血液製剤であるため、未知の感染因子の混入が否定できない。
※ヒトのγ-グロブリンであるが、抗原感作が起こる可能性がある。
※アナフィラキシー・ショック、アレルギー反応の症状を起こしうる。
(発熱、発疹、咳嚇、顔面蒼白、血圧の低下、ショックなど)
※川崎病などで実施するγ一グロブリン400r/sの点滴持続静注と比して、血圧の変動、嘔吐を来しやすいという印象もある.
※保険適応外の治療法である.
【実施上の注意点】
※生物製剤であるγ-グロブリンの利点・欠点について、患児とその家族への情報提供は必須である。
※点滴静注時には、担当医はベッドサイドにいて観察を続け、血圧の測定、その他ショックの際の緊急の対応を準備しておくことが重要である。
■III. メチルプレドニゾロン・パルス療法 --- (東京医科大学小児科:河島尚志)
【概略】
インフルエンザ脳炎・脳症に対する確立した治療は未だない。しかし経過中に高サイトカイン血症が認められること1)、死亡例の骨髄に稀ならず血球貧食像が認められること2)、などから、治療法としてメチルプレドニゾロンパルス療法の有効性が推察される。
【適応】
インフルエンザ脳炎・脳症の診断がなされた時点で、早期に開始すべき治療法と思われる。具体的には、意識障害の遷延化(>6時間)、頻脈など全身性炎症反応症候群(SIRS)の条件を満たすことが判明した場合、あるいは42℃以上に体温の上昇をみた場合には疫学的に死亡率の上昇が判明しており、このような場合が適応が考えられる。
【具体的な方法】
※methylprednisolone(ソルメドロールR) 30mg/kg(max.1g) 1時間以上(一般に2〜3時間)かけて持続点滴離注し、効果が認められれば連続3日間継続する。
※パルス療法中は、ヘパリン100〜150単位/kg/davを同時に併用する必要があり、活性化部分トロンボプラスチン(APTT)を1.5〜2倍に延長した状態で用いる3)。
※他の方法として早期超大量療法(mPSL30mg/kgを15分問行い、その後45分休薬し、再び5.4mg/kg/hrを23時間行う)も有用な可能性がある4)。
※後療法として経口・静注用ステロイドの使用はパルス療法の反応をみた上で行うが、一般に使用していない。
※ステロイド薬の髄注に関しては20〜40mg髄注にて後遺症なく治癒した4例の報告があり5)。
【期待される効果】
※脳浮腫の改善
※高サイトカイン血症の改善
※病態としての血球貧食症候群状態の改善
【利点】
※迅速性:静脈ラインが確保できれば即座に実施が可能である。
※簡便性:血漿交換療法や脳低体温療法に比較して、簡便に実施できる。
※再実施:繰り返し行うことができる。
※併用性:他の治療法であるATIII療法、抗ウイルス薬治療、血漿交換療法、脳低体温療法などと併用して実施が可能である。
※脳炎・脳症の早期でも進行期でも実施が可能である。
【欠点】
※脳炎・脳症の症状の悪化の可能性がある。
※作用が一過性で、リバウンドが起こりうる。
※二次感染の危険性がある。
※apoptosisを誘導する6)(一部に、apoptosisと病態の関連が指摘7))
※免疫抑制によりウイルスの増殖を促す可能性がある8)
【実施上の注意点】9,10,11)
※副作用として、以下のものが報告されているが、とくに心血管系の副作用には注意が必要であり、モニターリングは必ず行う。可能であれば、脳波,脳血流、脳圧モニターも同時に行う。
i. 心血管系:不整脈(心室性頻脈、徐脈など)、心筋梗塞、突然死、高血圧
ii. 鉱質コルチコイド様作用:低カリウム血症、ナトリウム、水分の貯留
iii. 神経系:脳圧の充進(pseudotumor cerebri)、痙撃、うつ
iv. その他:感染、高血糖、消化管出血、筋力低下、過敏反応(アナフィラキシーショックなど)、味覚障害(金属臭など)、発赤、熱感、低フィブリノーゲン血症、膵酵素の上昇、凝固充進による血栓
【これまで報告された効果】
※徳島大学より救命例の報告12)
※東京医大より脳波上の改善例が報告13)
■IV. アンチトロンビン大量療法 --- (熊本大学小児科:布井博幸)
【概要】
インフルエンザ脳炎・脳症の予後不良例においては、けいれんを伴う精神神経症状に播種性血管内凝固症候群(DIC)を伴っている。他方血管内皮の障害による二次的な凝固線溶系の異常とそれに続く好中球の活性化による組織障害に対して、ヘパリンを用いないアンチトロンビンIII(ATIII)大量療法が有効であることが最近報告されている。インフルエンザ脳炎・脳症の全身性臓器障害が血管内皮細胞の障害による二次的なものであれば、ATIII大量療法が有効ではないかと考えている。実際、Reye様症候群、敗血症によるDICなどの多臓器障害状態にも使用されている。またDICを伴った急性脳症の症例にもATIII大量療法が有効である症例の報告がある。このATIIIの使用は現在のところ、DIC治療について40-50単位/sの投与量を3〜9日間までは認められているが、120〜250単位/sを5日間使用する治療は認められていない。この治療はインフルエンザ脳炎・脳症の各フェーズに有用な方法と思われる。
【適応】
1. インフルエンザウイルス感染が疑われる患者であること。
(Directigen Flu-Aで抗原陽性であることが望ましい)
2. けいれんや急速に進行する意識障害(JCS>20)などの重篤な神経症状が認められること。
3. 血小板減少または何らかの凝固能異常が認められること。
(血小板数<10万/μLまたはPT<75%,APTT<75%,FDP>10mg/mL)
4. 進行する肝機能異常または腎機能障害が認められること。
(AST>100,ALT>100,LDH>800または尿pH>6.5=尿細管アシドーシス)
※判断:1.が疑われ、2.の症状があり、3.または4.のいずれかの所見がある。
【具体的な方法】
1. 対象
※インフルエンザ脳炎・脳症患児で上記の基準を満たす場合。
2. 方法
※ATIII 125〜250単位/kg(1時間)点滴静注、5日間連続投与。症状の変化、効果を確認の上、延長も可能である。
※急性脳症に対して行われる従来の治療(脳圧降下のためグレセオール点滴静注、デキサメサゾン静注投与、播種性血管内凝固症候群に対する新鮮凍結血漿投与、FOY、血圧降下に対するDOA/DOBなど)に加え、ATIII大量療法を実地する。ただし播種性血管内凝固症候群で一般的に用いられるヘパリン療法はATIIIの効果を抑制するので使用しない。ステロイド・パルス療法との併用はできない。
【期待される効果】
※播種性血管内凝固症候群を伴う急性脳症は急速に脳浮腫を起こし、重大な後遺症を残すことが多いが、これは血管内皮細胞の障害が原因の一つと考えられ、今回のATIII大量療法により、血管内皮細胞障害の改善にともない凝固能の回復および過剰な免疫反応が改善され、それに続く諸臓器障害が軽快し、後遺症の軽減が予測される。
【利点】
※基本的にどの病院でも出来る治療法である。
※ATIII大量治療は40-60単位/kgではDIC患者にすでに承認されている安全な治療法である。
※AT皿大量療法(125〜250単位/s)についても成人型呼吸切迫症候群に用いられ、その効果および安全性についても確認されている。
【欠点】
※保健診療として認められていない。
※高額である。
※ATIIIの保健適用疾患としてインフルエンザ脳炎・脳症が載っていない。
【実施上の注意点】
※ATIII大量療法は、DICでは30-60単位/kg、連続5日間程度は保健診療として認められているが、125〜250単位/kg、連続3日間は高額であり、しかも保健診療として認められていない。できれば倫理委員会などに審議をお願いし、正式な手続きをしておくことが必要と考えられる。
【副作用報告】
※承認時4499例の使用経験では、発疹1名、嘔気1名、肝障害1名、好酸球増加1名、頭痛1名、発熱1名、重複1名で、副作用率0.11%であった。
※その後2000年9月までの市販後調査でいずれも重症な基礎疾患のある患者で5名の重篤な副作用(アナフィラキシー・ショック、心停止、血圧上昇、肺水腫)が報告されている。
■V. 脳低体温療法(軽度低体温療法) --- (小田原市立病院小児科:大槻則行)
【概要】
低体温療法は、成人の頭部外傷や蘇生後脳症などに対して施行され、効果をあげている。インフルエンザ脳炎・脳症では髄液中の炎症性サイトカインの増加が認められ、中枢神経内の異常な免疫反応の存在が示唆されている。低体温療法は、このような過剰な免疫反応を抑制し、神経障害の拡大を阻止することを目的として施行される。
【適応】
○意識障害、痙撃(重積)等で発症
○脳炎・脳症:急性期であること
○脳波の所見:高圧徐波、低電位活動等一意識障害を示唆する所見
○人工呼吸器管理を要する例
○髄液所見:特に脳圧充進例
○Japan Coma Scale:200以上、G1asgow Coma Sca1e:8以下
【具体的な方法】
※目標体温:体温を33.5〜35.5℃(-2〜4℃)。脳温(鼓膜温)を33.5〜35.5℃にする。症例の重症度、脳浮腫の程度にもよる。鼓膜温はGenius赤外線鼓膜体温計、さらにMonathermで持続的に計測する。
※実施方法:導入期にはブランケット冷却加温システムを用いる。とくに頭部をアイスノンなどにて冷却する。
(1)体温が38℃以上では、水温を10〜15℃で開始。
(2)体温が37℃以下では、水温を20〜25℃で開始し36℃まで急速に冷却する。
36℃以下になる頃より、1時間に-0.5℃以下のぺ一スで冷却を続行する。
体温が高温の場合には、冷水で胃洗浄を併用する。
※低体温実施期間:3日間以上、7日間以内。
※復温開始:脳波でδ⇒θ波がみられれば復温を開始する。画像所見、髄液所見を参考とし0.5℃/12時間で復温する。期間は7日間以内、悪化所見あれば再度低体温へ戻す。血小板減少、凝固系の変化などは復温時に問題を起こしやすいのでゆっくり復温する。また、経管栄養もあわせて開始する。
※麻酔方法:導入時には、強い麻酔作用と頭蓋内圧降下作用を期待してペントバルビタールを用いる。体温が安定期に入ればミダゾラムヘ変更する。筋弛緩剤も併用する。
【軽度低体温療法に用いる薬剤】
1. 麻酔剤
a) バルビツール系静脈麻酔剤
pentobarbital, thiopental sodium:1〜4mg/kg/hr
b) GABA agonist
midazolam:0.1〜0.2mg/kg/hr
2. 筋弛緩剤
pancronium:0.1〜0.2mg/kg/hr
3. 抗凝固療法
nafamostat mesilate:0.05〜0.1mg/kg/hr
urinastatin:0.5〜1.0万単位/s×3
4. 脳圧降下
mamitol:1g(5ml)/kg×4, g1yceol:1g(10ml)/kg×4
5. ステロイド薬
dexamethasone:0.15mg/kg×4 or 0.4mg/kg×2
steroid pulse(methylprednisolone):30mg/kg
6. 制酸剤
famotidine(gaster):0.5mg/kg×2
【実施上の注意点】
※血圧の維持:もっとも困難の問題は、血圧のコントロール維持である。十分な輸液量を維持し、血圧を保つ。DOAなどを併用する。
※総輸液量を80-100ml/kg程度で維持する。脳内熱貯留の回避、異常物質の洗いだしに必要である。また血液希釈は脳虚血に対して有利に作用する。
※逆に、過度の水分制限は血圧低下、脳虚血につながり脳浮腫を悪化させることがある。
※過度な血液希釈は冊の酸素運搬も低下させる。Hctを30-40%に維持。
※低アルブミン血症も、循環動態上好ましくない。血管透過性が充進し、血管内脱水状態を呈する。アルブミンの補充を急性期に実施しておく。
※低K血症については、3.0mEq/lまでは補正の必要はない。復温時に高K血症になることがあり、過剰な補正には注意を要する。
※血小板減少は明らかな出血症状がなければ問題はない。
※呼吸管理:治療期問中、人工呼吸器管理を行う。急性期を除いてpCO2は35-40mmHg程度に維持する。
※過呼吸状態に対する脳内血管の化学的調節は、48時間以内に順応し、むしろ脳虚血に傾き増悪因子になることがあるため正常換気を心がける。
※PEEPは脳圧上昇につながるため、肺に問題がなければできるだけ避ける。
※O2はfree radicalの発生への配慮が必要であるが、SaTO2/PaO2を指標に必要十分な濃度で投与する(しかし低体温ではPaO2/PaCO2は実測値より高くpHは実際値より低く測定されるため注意を要する)。
※血糖は脳内で使用されるが、高血糖は嫌気性代謝に傾くため管理を要する。
※低体温実施中は、基礎代謝が低下しており異化が充進することはない。
※点滴は維持輸液とし、総合ビタミン剤を配合する。
※初期のアミノ酸投与は、肝臓への負荷などがあり一般に投与はしない.
※脳圧九進の抑止:脳圧降下剤は、頭蓋内圧をモニタリングしながら用いることが望ましい。
※g1yceol/mannitolは、脳圧をモニタリングして、投与間隔、投与時間、交互に使用する、などを検討しながら用いる。CT/MRI画像所見、脳波、髄液圧などを検討してから使用することもある。g1yceolは肝臓(TCAサイクル)で代謝されるためReye症候群では禁忌であるため、この場合にはmannitolを使用する。問題点は、脳一血液関門の障害が著しい部位ではmannitolの効果が乏しいことである。
※mannito1の使用法:2.5〜5ml/s(0.5-1g/kg)を1時間かけて点滴静注する
1日に3〜6回の投与を行う。frosemideの併用も行う。
※[CPP]:cerebral perfusion pressure = 平均血圧 - ICP。血圧の管理は重要
※脳血流量の維持もあり、頭部挙上は約10°までとする。
※薬剤の問題:
バルビタール系薬剤:バルビタールは正常部位の血管を収縮させて虚血部位への血流を増加させることにより保護作用を示すが、一方TCAサイクルとミトコンドリア電子伝達系の代謝ブロック作用によりATP産生ができなくなる。
また循環抑制と易感染性もある。そのためけいれんの抑止困難な例に急性期のみ使用する。
ステロイド薬:細胞内へのブドウ糖の取り込みの抑制と神経細胞から放出されたグルタミン酸のグリア細胞への取り込みを抑制する。このため神経細胞障害をさらに悪化させ、神経細胞死にも関与するとの報告がある。ステロイド薬をサイトカイン産生抑止のために使用するには、使用時期、量、期間などを考慮する必要がある.
※麻酔剤・筋弛緩剤投与により無気肺が出現しやすく、さらに感染のfocusとなりやすいことに注意を要する。
【期待される効果】
※脳保護効果
※抗脳浮腫効果
※サイトカイン産生抑制効果
【利点】
※過剰な免疫反応の存在が推定される本症の中枢神経系に対して、免疫抑制を行うことができる唯一の方法である。
※脳圧が、充進していると考えられる例に適する。
【欠点】
※ICU管理を要し、熟練した管理者が必要である。人手を要する。
※種々のモニタリング機器を必要とする。
※Nrsなどのスタッフにも慣れた人員が必要となる。
※血圧管理や人工呼吸器管理を要し、三次医療施設が必要である。
※以上の要件から、一般病院での低体温療法は困難であり、緊急を要する本症患児をさらに転送せねばならない場面が想定される。
※無気肺、肺炎などの合併症を起こしやすい。
※脳画像診断のために検査が実施しにくくなる。
 
■VI. 血漿交換療法 --- (横浜市立大学小児科:横田俊平)
【概要】
インフルエンザ脳炎・脳症は、発熱から短時間のうちに突然けいれんを起こし、意識障害が続き、その後全身状態が悪化してDIC、多臓器不全に至る。中枢神経障害が先行し、その後あたかも全身性炎症反応症候群(SIRS)様の病態に至る。意識障害の進行に伴って、血液検査で帽AST/LDH/CKが急速に上昇し、FDP-E/D dimerおよび尿中β2-ミクログロブリンの著増をみる。いずれも炎症性サイトカインに誘導される蛋白であることから、全身状態の悪化が進行する時期には高サイトカイン血症が生じていることが推察される。この状態を改善するために血漿交換療法が有用である可能性がある。
【適応】
※けいれん、意識障害にて受診し、インフルエンザ脳炎・脳症が疑われ、AST/LDH/CKなどの上昇、FDP-E/D dimerの上昇が認められた症例が適応になる。
※PhaseI〜IVが対象になる。
【具体的な方法】
1. 血漿交換の流れ
※1回の血漿交換の処理量は算定して循環血漿量とする。回路の体外循環量による血漿交換の効率を考慮すると、3日間で全血漿の置換が行われることになるので、3日間を1クールとして実施する。
2. 脱血・返血ルートの確保
※脱血・返血は、動脈⇒静脈(榛骨動脈⇒肘静脈)または静脈⇒静脈(肘静脈あるいは大腿静脈)の2通わがある。
※大腿静脈にルート確保する場合には、小児血漿交換用VAS-CATHRが有用である。常用されるIVH用ダブルルーメン・カテーテルより閉塞を起こしにくいという利点がある。
※末梢動静脈を使用する場合には、動脈は榛骨動脈を22〜24G針で、また静脈(肘静脈など)は18〜22G針を用いて血管確保することが多い。血漿交換を終了した後、返血に圧力がかかるため、概して静脈には太い針を用いることが必要になる。
3. 血漿交換量の設定
※1回の血漿交換で行う血漿処理量は、循環血漿量を以下のように算定して設定する。
4. 置換液の準備
※置換液は、未知の感染因子の混入をなるべく回避するため、凍結新鮮血漿(FFP)は用いずに、アルブミン液(5%ブミネートR)を使用する。しかし凝固異常が認められる場合には、FFPを用いることも選択枝のひとつである。
5. 体外循環量の推定
※最近、種々の小児用の低容量の血漿分離膜が開発され、小児の血漿交換療法も容易に実施できる環境が整いつつある。また血漿交換回路の工夫により、従来最低でも150mLを必要とした体外循環量は、最近では50mL程度まで圧縮されるようになった。これらの進歩により体重4sまでの小児に血漿交換療法を行うことができるようになった。ただし、体重10s以下の小児に対しては、急激な循環血液量の変動をなるべく抑えるため、あらかじめ回路内を濃厚赤血球液(MAP)と5%アルブミン(またはFFP)を半量ずつ混じたもので満たしておく。
6. 使用機器
※血漿分離膜は、プラスマフロー:02W(R)(旭メデイカル社:ボリュウムが少ない)、膜型血漿交換装置は、クラレKM8800(R)(クラレ社)を使用する。
7. 抗凝固療法
※ヘパリン、凝固異常がある場合にはフサンを用いる。
【期待される効果】
※高サイトカイン血症の改善により、細胞障害、組織障害の進行を阻止できる可能性がある。
【利点】
※急速に進行する全身の病状悪化を、即時的に改善させる可能性がある。
※最近では機器の進歩、技師の技術的向上により、かなり安全に実施できるようになった。
※置換液としてFFPの代わりにアルブミンを用いることにより、未知の感染因子の混入を避けることができる。
【欠点】
※小児に対する血漿交感療法は、充分なスタッフと熟練した透析技師がいてはじめて成功する。したがって実施可能な施設が限られる。
※保険適応外の高価な治療法である。
※FFPを用いる場合、未知の感染因子の混入が否定できない。
※FFPを用いる場合、アナフィラキシー・ショック、アレルギー反応の症状を起こしうる。
【実施上の注意点】
※ICU管理として、循環系、呼吸器系、凝固線溶系、IN-OUTバランスのモニタリングなど、血漿交換療法に付随する管理が充分に行われる必要がある。
※熟練した透析技師、看護体制が必要である。
 
■VII. リハビリテーション --- (神奈川県総合リハビリテーションセンター小児科:栗原まな)
【概要】
インフルェンザ脳炎・脳症に罹患した患児のうち、約30%は急性期に死の転婦をとり、約25%は後遺症を残す。とくに後遺症を残遺した患児については社会復帰をめざしたリハビリテーションが必要であるが、そのアプローチの方法についての報告はすくない。
急性脳炎・脳症後のリハビリテーションを目的として受診した患児は、まず知能障害と運動障害の面から4群に分類し、それぞれの特異性に応じたプログラムを用意することがリハビリテーションの第一歩となる。
I群:知能低下のない群II群:軽度の知能低下を残した群III群:最重度の知能低下を残した群IV群:最重度の知能低下と運動障害の重複障害を残した群
脳炎・脳症発症までの既往歴、発症状況、現症を比較し、各群ごとのリハビリテーションのプログラムを作成し、予後との関連をみると、
I群:リハビリテーション訓練期間中に機能の回復をみた。II群:軽度知能低下と高次脳機能障害を呈した。認知訓練が主体。III群:重度知能低下を呈した。てんかんの治療と家族支援が必要。IV群:ねたきり状態。てんかんの治療・経管栄養・排痰・吸引指導などの医療面の支援が必要。
いずれの群も、各専門領域とのチーム・アプローチを行い、その目標は在宅生活へ結びつけることである。
また、脳炎・脳症後に発症するてんかんは、予後の悪いことが多いので、脳炎・脳症発症早期からの経過観察と、定期的な脳波検査が大切である。てんかんを発症した場合には、早急に治療を開始する必要がある。
【リハビリテーションの実際】
<I群>
1歳3ヵ月発症のインフルエンザ罹患時Reye症候群の症例。急性期には脳圧コントロール、呼吸管理、交換輸血等の治療が行われ、意識障害は11日持続した。1歳4ヵ月で当科を紹介された時には座位保持もできず、発語も消失した状態であった。入院ベッドが空くのを待つ問に座位が可能となり、1歳5ヵ月より歩行も可能となったため、外来のみでリハビリテーションを行った。3歳1ヵ月現在、軽度片麻痒を認めるが歩行、走行は実用化しており、知能低下はなく、てんかんの発症もない。頭部MRIは正常であるが、脳波では全般性疎徐波が認められる。リハビリテーションの経過としては、医療面では脳波検査・画像検査を定期的に行い、発達面を含め経過観察を続けている。
<II群>
7歳11ヵ月時発症のReye症候群の症例。急性期には脳圧コントロール、呼吸管理、DICの治療、血漿交換療法などが行われ、意識障害は5日持続した。発症1ヵ月後には座位が可能となり、その2週間後には歩行が可能となり、さらに2週間後に経管栄養が中止された。発症3ヵ月後に当科を紹介され転院した。入院時には歩行、走行は可能であったが階段昇降のスピードは遅く手すりを要し、日常生活動作全般を忘れているようであった。日常会話の簡単な内容は理解できたが有意語はなく、運動性構音障害が認められた。てんかんの合併はなかった。頭部MRJで軽度の大脳萎縮、特に側脳室後角の拡大、両側側頭葉にT2・プロトン強調画像、フレアー画像で高輝度の信号域が認められた。家族の障害受容に大きな問題があり、発症後、本人を友人や近隣の人の眼に触れさせることを拒否し続け、自宅への外泊訓練が退院直前まで行えなかった。復学にあたっては院内学級教師の付き添いのもとで前籍校とは異なる特殊学級の見学を行い、復学することができた。入院リハビリテーションを5ヵ月行い、退院時には非常にゆっくりではあるが簡単な会話が可能となり、学習面では2学年程遅れた内容の段階にまで回復した。日常生活動作の多くの部分において健忘や失行が認められた。認知訓練・家族の障害受容・復学への支援が中心であった。
<III群>
4歳5ヵ月時発症の原因不明の急性脳症の症例。急性期には脳圧コントロール等が行われた。発症後1ヵ月半より歩行が可能となったが最重度の知能低下をきたし、発症3ヵ月後より脱力発作、短強直発作が出現、γ-グロブリン療法、ACTH療法、種々の抗てんかん薬の調整にもかかわらず、8歳5ヵ月の現在でもてんかんのコントロールは得られていない。画像検査では中等度の広範な脳萎縮が認められ、脳波では全般性のてんかん性発作波が認められた。本症例においても家族、特に母親が障害を受容できず、3ヵ月余り落ち込みから抜け出せない状態であった。本症例においてはてんかんの治療と、家族の障害受容、在宅への支援が中心であった。
<IV群>
本症例は脳症発症前に大頭症と軽度の運動発達遅滞がみられていた。11ヵ月時原因不明の急性脳症に罹患し、急性期には呼吸管理、脳圧コントロール等の治療が行われた。発症7ヵ月後に当院に転院した。3歳1ヵ月現在も頸定はなく寝たきりの状態で、最重度の知能低下を呈している。脳症発症5ヵ月後より全身性強直間代発作、短強直発作、ペダル漕ぎ様の発作が出現し、現在もてんかんのコントロールは得られていない。入院時検査で、高度の慢性硬膜下血腫が発見され、血腫除去が行われた。入院当初は退院が難しいと思われたが、在宅への支援に力を入れ、6ヵ月の入院リハビリテーションを行った後・在宅生活へ移行することができた。
【解説】
I群からIV群になるにつれて後遺障害が重度となり、III群、IV群においてはてんかんの発症が多い。脳症後に発症するてんかんは難治性が多く、脳症発症早期から十分な観察と、てんかん発症早期からの適切な治療が必須である。
検査所見では、障害が重度なIII群、IV群において脳萎縮が著明であり、さらにIV群においては硬膜下腔の拡大による橋静脈の断裂の結果、著明な硬膜下血腫が認められることがある。
入院期間については、I群からIV群になるにつれて長くなるが、これは障害が重度になる程リハビリテーションに要する時問が長くなり、家族が障害を受容し、在宅生活に戻るまでに準備が必要なことを示している。
各群ごとにリハビリテーションの内容は異なっているが、いずれの群においても最終目標は在宅生活である。在宅生活がかなり難しく思われた症例、特にIV群に該当する症例でも、入院後てんかん治療、硬膜下血腫除去、シャント挿入、吸引指導、経管栄養指導等の医療面を中心としたアプローチと・他の各専門領域からの支援により在宅生活へ戻ることが可能と思われる。
具体的なリハビリテーションの内容は、各群ごとに特徴がみられる。
I群では、産療面では精査と経過観察が中心である。機能訓練としては運動機能が低下している時期の粗大運動訓練と、その後の巧緻性訓練である。
II群では、臨床心理士・言語聴覚士による認知訓練を中心として、各専門領域による支援が行われる。理学療法士は粗大運動の安定化を担当する。作業療法士は日常生活動作の再学習を担当するが、日常動作の多くの部分を忘れているため、1つ1つ再確認しながら繰り返し学習する必要がある。院内学級教師による学習では、発症前に学習済みの部分は比較的再学習しやすいが、未履修部分の学習には困難が伴い、また学習スピードの低下も大きな問督である。体育訓練は、集団での動作のコミュニケーションと・体育動作・例えばボール投げ動作等の再学習を行うが、いずれも手問と時間が必要である:_また、この群讐一見回復が良いようにみえるため、復学においては前籍校に戻らせたいといつ家族の希望と現実との差が埋められずに問題が起きやすい。復学にあたって配慮が必要である。
III群では、てんかんの治療と最重度の知能低下に対するリハビリテーションが中心である。III・IVの多くはてんかんが発症し・長期にわたり発作が毎日みられている例もある。脳症後に発症するてんかんは難治性のものが多く、てんかんが原因となって機能低下をきたす例もあることから、脳症発症早期からの適切な観察と治療が大切である。また知能低下が著明で・患児の行動が発症前と非常に異なることになるが、その状況を家族は容易に受容できない。また運動機能が回復するにつれて多動となり・安全の確保に困難が生じ・IV群とは異なった面で家族の負担が大きくなる。
IV群では、急性脳症生存例の予後としては最も不良な群である。医療が欠かせない群で、安全な在宅生活を送るための支援が中心となる。この群では、患児と家族を一体として支援し、精神面の安定を含めた「生活の質quality of life」の向上が目標となる。
いずれの群においても、後天性の障害をもったことに対する家族のショックは非常に大きく、リハビリテーションを行うにあたっては、患児の訓練と平行して、家族の障害受容に多くの力を注ぐ必要がある。障害を受容するにはある程度の時間を要するが、その時間短縮するためには臨床心理士とケースワーカーの支援がたいへん有用である。
患児の訓練においては、各専門領域によるチームアプローチが大切であるがこれらの専門スタッフによる支援が受けられる施設は現在のところ非常に限られていると思われる。今後リハビリテーション施設の拡充・充実が望まれる。