骨粗鬆症の判定


骨粗鬆症の判定

4.骨粗鬆症の本態

ここまで知識を蓄えたところで骨粗鬆症の本態に迫りましょう。

 正常の骨のリモデリングではまず古い骨を取り除くために骨吸収が起こりその後吸収された量に見合うだけの新しい骨の合成である骨形成が起こります。厳密には30歳代くらいまでは骨形成の方が少し強くて骨の量は少しずつ増えてゆくわけです。

 この時期に到達した人生の中で最大の骨の量をPeak bone massといいます。その時点からは未だに正確な理由は不明ですが骨吸収の方が優位に立って骨の量は減少し始めます。これは寿命のつきるまで後はずっと減少してゆくだけです。男性の方はこの減少速度はほぼ一定ですが、女性には閉経によるエストロゲンの急激な低下が有りますので閉経を期に骨の量の減少速度はよりいっそう急速になるわけです。ここで大事なことはPeak bone massより骨の量が減少しているからといってそれが即骨粗鬆症を意味している訳ではないことです。たとえばある人のPeak bone massが十分高くて90歳の寿命が来るまでに骨の量が骨折危険域にまで低下してこなければその人は骨粗鬆症にならなかったことになります。また別の人はPeak bone massがあまり高くなくて55歳で骨の量が骨折危険域に入ってしまったとしたならば、これは骨粗鬆症になったということとなります。

ちなみに骨粗鬆症のひどい人が実際どんな骨をしているかというと、我々は手術においていろんな年齢層のいろんな骨を直接さわりますが、みなさんも整形外科の手術において鋸、ハンマー、ノミ、ドリルの様な大工道具の友達みたいな道具を使っているのはご存じだと思います。しかし骨粗鬆症のひどい骨はそんな道具を使わないでも針金を通す穴をあけたり、少し丈夫な針を使えば骨を裁縫のように縫うことすら可能なのです。感触としては少し丈夫な卵の殻のようなものです。螺子を打っても全く効かず文字道り糠に釘のような状態になってしまっています。このすごさは想像を絶する物です。

5.骨粗鬆症の判定

骨粗鬆症の程度の判定には昔から有るレントゲンを用いて行う方法と最近になって発達してきたCT,超音波を使う方法があります。レントゲンを使う方法は熟練した整形外科医が画像を読めば骨粗鬆症の判定は容易ですが、結果を数字として残して定量化することは出来ません。一方CT.や超音波を使う検査が数量化して結果が出るので絶対的に確実かというとそうではなく、各機械間との誤差が大きいのが実状です。ある施設の機械で測って骨粗鬆症と判定されても、別の施設の別の機械で計ったら正常であったなんてこともあります。機械が異なると公平な比較が出来ないことが多いですが、同じ機械で計測している人同士なら比較することがある程度出来ます。また太っている人とやせている人の間にも大きな誤差が出やすいですし、同じ人を連続して計測しても全く同じ数字が出ることはありません。ですから機械で計測した骨密度は非常に重要な目安になりますが絶対的に盲信するようなことがあってはいけないと思います。数字だけで診断するのではなく症状、レントゲン等と総合的に判断しなくてはなりません。

6.骨粗鬆症の実際の症状について

骨粗鬆症はその状態だけ有っても何ら痛みを出さない疾患です。レントゲンで一目でわかる物から顕微鏡レベルでわかるような非常に細かい骨折まで含めて、とにかく何らかの骨折が起こって、およびその部分の変形が出現して初めて痛みを出すのです。またその微細な骨折が原因となる変型により、筋肉や筋に無理がかかることによって出る痛みもあります。骨粗鬆症の骨折、好発部位としては脊椎(背骨)、上腕骨近位(腕の付け根)、橈骨遠位端・(いわゆる手首)、大腿異骨近位(足の付け根)、肋骨などです。

1).背骨について

背骨由来で起こる痛みで代表期な物は圧迫骨折による急性の腰、背中の痛みですが、無症状で別の機会にたまたま背骨の骨の変形としてレントゲン写真で発見されることも多いです。その他の症状として圧迫骨折に起因する背骨の変形やそれと関連した慢性腰背痛、身長の低下などが挙げられます。圧迫骨折は胸腰椎移行部(ほぼ背中の真ん中です)中部胸椎、腰椎に起こりやすく、転倒などをきっかけに突然に発症する物も多いですが痛みが出現すぐのレントゲンでは全くわからず、数日たってからのレントゲンで初めて骨折が確認されるような亜急性の物も珍しくありません。一方原因がなんだかよくわからないうちにいつの間にか圧迫骨折を生じていることもあります。脊椎骨粗鬆症で起こりやすい変形は、円背、凹円背、亀背、前後彎などです。これらの基本的要素は後彎です(後彎とは背中が丸くなることです)難しく言い過ぎましたが要するに猫背です。これは背骨の骨の前方の方がつぶれやすくて、くさび形に変形することが多いからです。後彎が明らかになるとストレスが集中するところに痛みが呼び起こされ、また脊椎を安定させるために脊柱の周りの筋肉が慢性疲労を起こして鈍痛を引き起こしたりします。筋肉の付着している部分も過緊張を起こして痛みのポイントになりやすくなります。そのほかにも脊椎の関節や靱帯にも緊張がかかりこれまた痛みを起こす原因となってきます。以上のような脊柱変形に伴う腰背部痛の特徴は、比較的軽度の慢性的痛みで安静時痛も少ないのですが、時として運動性の低下した変形脊柱に無理な動作が加わってぎっくり腰を起こせば強い痛みとなります。これら慢性腰痛は多くは炊事などの中腰の仕事、ついで寝起き、歩行、朝起きるときの順で起きやすい傾向があります。

2).関節部付近の骨折について

 上腕骨近位部骨折橈骨遠位端骨折も骨粗鬆症の人には大した外力もかからず起こる骨折ですが、これら上半身の骨折は幸いなことに多くの場合多少の苦労はありますが殆ど日常生活に不便のないレベルに治癒することが可能です。しかし下半身の骨折特に大腿骨近位部の骨折についてはそうはいきません。

 大腿骨頚部骨折は骨粗鬆症がある人以外は滅多に起こりません。たいていは自宅内における転倒で起こっています。時には転倒などのきっかけもなくただ歩いているだけで起こってしまうこともあるくらいです。この骨折の恐ろしいところは骨折が落ち着くまで殆ど身動きできず寝たきりの状態になってしまうことです。ですからこの骨折を診断したならば可能な限り早く手術などを行って骨折部を固定して痛みを取り除いてリハビリが始められるようにしなくてはなりません。しかし高齢者は肺炎を始め心臓・循環器疾患、脳疾患、それによる全身もしくは半身の麻痺、腎機能・肝機能の低下、膝や腰の痛みなど多くの合併症を抱えていますので、確かに手術治療は危険を伴います。また骨がもろくなっているので骨折治療用の金具の固定力も弱くなり、なかなか骨折がうまく直らないこともあります。しかし高齢者を一時的にせよ寝たきりの状態にしておくと、肺炎、痴呆、褥創(床ずれ)全身の筋力低下、関節の拘縮、持病の悪化などで自宅への復帰が非常に困難になり、それどころか生命への危険も上昇してきます。生命予後に対しては手術したときよりも手術しなかったときの方が悪いと思います。さらに付け加えるとこの骨折はどんなに治療がうまくいっても痴呆の合併症があった場合は歩行能力はけがをする前の1〜2割低下します。それと1年を通じて発生するけがですがなぜか3月から6月にかけて当病院では非常に多くなります。

7.骨粗鬆症は予防できるのか

 骨粗鬆症の第1の予防及び治療目的は、骨折を防止し、日常生活の質を長期にわたって維持向上させることにあります。一度骨折をすれば変形や運動能力の低下をけがの前の状態に復活させるのはかなり難しく時間もかかる(時には数年かかってその前に寿命が来てしまうこともあります)くらいですから、骨折を起こす前にいかに早期から骨粗鬆症の進行をくい止めるかが重要なこととなってきます。

1).骨粗鬆症を考えた食事 

600mg/day以上のカルシウム摂取を心がけましょう。ただし厚生省の指導では600mg/dayとなっていますが、この数字は約20年も前に制定されてその後見直しされていない物です。他の国の最新の基準を見てみると1000mg/day〜1200mg/dayの摂取がおすすめとなっており我が国の基準現在ではとうてい骨粗鬆症の予防に足りないのではないかと考えられます。カルシウム剤を飲めば確かにその量を1日で摂ることは簡単ですがそれ本筋ではありません。日常生活の食習慣の改善で取り込んでいく方がいいに決まっています。目安としてカルシウム200mgを含む身近な食品を挙げてみますと、牛乳200ml1本 チーズ30g ヨーグルト200ml 豆腐2/3丁 納豆2個、納豆はカルシウムだけでなく骨の形成に関わるビタミンKも含んでいます。 がんもどき1枚(これはお得です) 小松菜茹でて100g 人参2本(これはとても食べ切れません) めざし3匹(あっと言う間に食べられます) シラス40g ゴマ大さじ2杯(これちょっと食べられませんね)なんてところになります。これらだけ考えても1200mg/dayを3回に分ければ400になりますから少し注意しただけで十分なカルシウムが摂取できるのではないでしょうか。ま、それは言い過ぎとしても600mg/dayくらいは何とかなるでしょう。さらに詳しい食事の指導もあるのですがスライドなんかを使わないととても口だけでは説明し切れませんのでお近くの整形外科外来にあるパンフレットや市販の本に目を通おしていただければよりよいと思います。

2).生活においての注意点

日常生活の中でたくさん遭遇する骨粗鬆症の危険因子を避けつつ生活を楽しんでいこうということです。まず第1の危険因子は女性ということです、しかしこればっかりはいかんとも仕方がありませんので対策もありません。ストレスも体のホルモンバランスを崩して骨粗鬆症だけでなくほかの病気の原因になります。外来で多くの患者さんを診察して受ける印象ですがお気楽な人はけがや病気が早く直りますし、神経質でいつまでも細かいことにこだわっている人は治りが遅い気がします。喫煙、大量の飲酒も良くありません、塩分の摂り過ぎや当然運動不足もろくな結果を招きません。日光に当たることによってビタミンDの補充を行うことも重要です。太陽にも十分当たっておかないと骨粗鬆症の原因になります・ビタミンDは口から取り入れる栄養ですがそれが体の中で使い物になってカルシウムの吸収促進などの効果を発揮する活性型ビタミンDに変化するためには皮膚に紫外線を受けることが必要なのです。