43 赤ちゃんの食物アレルギーを積極的に直す経口免疫療法


当院では,安全に食べさせて,しかもアレルギーを防ぐように低年齢からの食物アレルゲンの少量負荷をお勧めしています.
乳児期に起こってくる食物アレルギーの原因は、家庭内に多く存在する食物です。赤ちゃんの周りに食物が散らばっているけど,まだ赤ちゃんに食べてないという状況が食物アレルギーを作るわけです


原因としては卵小麦、牛乳(粉ミルク)、ピーナッツ、大豆(きな粉)が90%以上を占めます。
そこで、これらの食物を早期から安全に食べられるような工夫が必要となります。
当院では、赤ちゃんにでも食べさせやすいように、微量の食物混ぜて分包したものを作っています。ミックスパウダーと呼んでいます。

ミックスパウダーは

P1 2.5mgミックスパウダー
P2 7.5mgミックスパウダー
P3 20mgミックスパウダー

の3種類となります。

見た目はこんな感じです。
スプーンで食べさせます。

食べさせ方を図にするとこんな感じ↓
(できれば、生後6か月までにスタートしてください。月齢が大きくなるほど治りにくいようです。)



※軟膏は目に入らないように、周囲1cmのみ避けてください。

初回は来院してもらい,院内で食べてもらいます.多くは口の周りが赤くなりますが心配要りません.その後は自宅で毎日飲ませて下さい.自宅で食べさせるのは連絡が取れる平日の午前中が良いと思います。
軽いアレルギー症状であれば食べさせている間に出なくなってしまいます.それを見計らって,アレルゲンの負荷量を2.5mg⇒7.5mg⇒20mgへと徐々に増やしていきます.(概ね2週間毎です.)
食物以外に入っているのは,腸内細菌の薬です.早期から善玉の腸内細菌を飲んでもらうことで,腸内に定着しやすくするのです.また、免疫療法は腸内細菌製剤を併用すると、効果が高まるというデータがあります。

※赤ちゃんは生まれたてのときに体に入った細菌を自分自身と認識します.これを免疫寛容と言いますが,もともとは抗体が自分自身を攻撃しないようにする仕組みです.お母さんからは,腸内細菌や皮膚の細菌など,様々な微生物が移行します.これらの細菌は免疫寛容によって体の中に定着していくのです.今は過度な清潔指向や消毒,抗生物質の使いすぎで,体の中の菌が減ってしまっています.ですので,ある程度は人工的に投与しておいた方が良いわけです.

20mgの負荷をある程度続けた後に,加熱した卵白やパン,牛乳などを院内で食べさせてみます.
何も症状が出なければ終了です.その後は下記を参考にできるだけ自宅で食べさせて下さい.

1、卵
 卵ボーロ1〜2個から初めて、どんどん増やしていってください。ミックスパウダーを食べていれば症状は出ることはありません。
 ある程度固形物を食べられるようになれば、お母さんの食事で卵を含まれてるのを与えてください。ミックスパウダーに含まれるのは生卵の乾燥卵白です。卵白も卵黄も食べられるようになっているはずです。

2、ミルク
 粉ミルクを飲んでいるなら、ミルクアレルギーはありません。牛乳もヨーグルトも大丈夫です。完全母乳で粉ミルクを飲んでいない赤ちゃんは、最初は5mlの粉ミルクを飲ましたり、スプーンでヨーグルトを与えてください。

3、小麦
 柔らかく煮たうどんを食べさせて下さい。最初は1〜2cmから初めて、どんどん増やしていってください。その後はパンと粉ミルクで作ったパン粥が良いと思います。

4、大豆
 お豆腐で大丈夫です。大豆はほとんどアレルギーはありません。気にせずあげましょう。

5、ピーナッツ
 ピーナッツそのままでは誤嚥するので与えないで下さい。ピーナッツバターを少量ずつなめさせるのが良いと思います。パンが食べられるようになっていれば、パンに塗って食べさせてあげて下さい。

6、ソバ
 ソバは怖いから食べさせないという方が多いですね。ざるそばを食べるときに少量食べさせたり、どん兵衛、緑のたぬきでも良いですよ。ソバは年長児まで食べる機会が少ないのと、細かくなるので飛び散りやすいのです。自宅で製麺しているお蕎麦屋さんでは、赤ちゃんの頃から皮膚に付きますので強いソバアレルギーを作ることがあります。リスクが高い赤ちゃんほど、きっちり食べさせておきましょう。

※固形食がなかなか食べられない赤ちゃんは、50mgをしばらく食べてもらうこともあります。ただ、お母さんが作った離乳食の方が美味しいよね

※ミックスパウダーは当院の患者さんでないとお渡しできません。申し訳ありません。遠方の方から、どうすれば良いかと相談を受けることがありますが、同じように食べさせておけば良いわけです。とりあえず卵ボーロを食べさせて下さい。卵ボーロは、一粒ずつ増やしていけるので、アレルギーの予防にぴったりです。

当院お勧めは
岩本製菓 5連ボーロ  1粒あたり全卵 23.5mg 粉ミルク 17.3mg
岩本製菓 国産卵黄かぼちゃボーロ 1粒あたり卵黄 19.6mg 小麦 6.4mg
(メーカーに確認済み)

その他
キューピーのたまごたっぷりぼうろ  1粒あたりの全卵 40mg(概算)

※強いアレルギー症状が出るアレルギーと分かっているお子さんでは、ご自分の判断で行わないで下さいね.
その他、以下に赤ちゃんを育てている間に、気を付けて欲しいことをまとめています。


1, できるだけ石鹸を使わない.

 石鹸は界面活性剤で、細菌を殺す作用があります。赤ちゃんを石鹸で洗うのが常識になったのは明治以降ですから、つい最近の話です。赤ちゃんの皮膚は石鹸で洗われるように設計されていないってことです。
 赤ちゃんの皮膚は産まれたときは無菌です。細菌が定着することによって守られるのですが、石鹸で洗われると必要な菌が一気に死んでしまいます。また、皮膚上の細菌の種類が多い方がアトピーになりにくいこともはっきりしています。
 赤ちゃんの皮膚の細菌叢を守るため、よほど不潔になったとき以外は石鹸を使わない方が良いでしょう。


2,食事をする部屋と赤ちゃんの寝室を分ける

 赤ちゃんのいるところに卵や小麦などの食物があると,目に見えないくらいの分子が肌から入って来ます.肌の下の免疫細胞が食物アレルギーの抗体を作ります.
 食事を作ったり食べたりする場所と,赤ちゃんの寝室は分けておいてください.

※お料理の後も,手を洗ってから赤ちゃんを触ってくださいね.

※1歳までの赤ちゃんのいる家庭では,ピーナッツ等のナッツ類を食べないようにしてください.クルミやカシューナッツ等もアレルギーの原因になるので、外で食べてくださいね。


3, 悪い細菌が体に付くことを防ぐ.

 乳児期から悪玉菌(黄色ブドウ球菌が代表です)の感染が続くと,免疫寛容のためそういった菌を排除する抗体が作られにくくなります.
 黄色ブドウ球菌は炎症を起こした皮膚に住みます.ひどい湿疹がある子はステロイド軟こうで炎症を抑えると菌が生えなくなります。



4, できるだけ多種類の離乳食を食べさせる.

 多くの種類の食物を食べた方が、腸内細菌の種類が増えて多様な免疫ができます。あまり怖がらずに色々離乳食で食べさせて下さい。お母さんの食べてるもので、極端に辛い物や生もの、ハチミツ以外ならなんでも良いですよ。なお、赤ちゃんの消化吸収能力が低いということはありません。

赤ちゃんの食事に関しては、こちらも参考にしてください。

5, できるだけ外で遊ばせる

 多くの種類の細菌を持っている方が、気管支喘息等、様々なアレルギーになりにくいことがはっきりしています.4種混合ワクチンを3回接種して破傷風を防いでから,外で遊ばせるようにして下さい.芝生の上でころころするのが良いと思います。

6, 抗生物質の使用制限

 風邪,中耳炎,副鼻腔炎等では基本的に抗生物質は不要です.正常細菌層を壊してしまうからです.2歳を過ぎるまで,どうしても必要な場合以外は,抗生物質を飲ませてはいけません.

7, 両親とのスキンシップ
 成人の皮膚は,健康であれば多くの常在細菌に守られています.スキンシップを行うことで,そういった細菌を早期から付けるのです.
※ ただし,不健康な皮膚には病原性細菌(黄色ブドウ球菌)が付いていることが多いです.ご両親の皮膚の細菌バランスが赤ちゃんに影響します。皮膚炎があれば、治療してください。

8, 赤ちゃんの腸内細菌を増やす

 できるだけ早期から腸内の細菌を増やしましょう.手っ取り早い方法は,お母さんがなめた乳首を赤ちゃんに吸わせることです.
※ 風邪を引いているときや,肝炎等の感染があれば避けてください.

 また、赤ちゃんの食器は食器洗い機を使わないようにして下さい.手洗いの方が雑菌が残りますので,腸内細菌が増えます.実際に食器洗い機を使う家庭の方がアレルギーのある子どもが多いということが証明されています.

長くなりました。ここまで読んで頂いた方、ご苦労様です。

最後になりますが。。。

そもそも赤ちゃんの免疫システムは,現代生活には適応していないということをご理解下さい。

人の遺伝子は10万年前の生活のためにできたものです.現在のように,きわめて清潔で,しかも食物に囲まれた生活は想定されていないのです.その結果,正常免疫ができにくく,アレルギーや免疫病(自己免疫疾患)が増えてきてしまっています。

免疫の成長のためには,生まれてからの1年間が重要です.免疫の主役はリンパ球ですが,腸や皮膚の上の細菌を利用してリンパ球が抗体を作ります.細菌のほとんどは体にとって必要なものです.もちろん,少数派ですが,体にとって有害な細菌もあります.有害な細菌をできるだけ防ぎつつ,体に必要な細菌をいっぱい持つことで,正常な免疫ができていきます.

赤ちゃんは大事ですが、大切にするあまり、過度な清潔主義、風邪や中耳炎ですぐに抗生物質なんて生活をしていると、アレルギーだけでなく将来の病気も増やしてしまうんですよ。

要はあまり神経質にならず、思いっきり子育てを楽しめば良いのです。
多少咳や鼻があっても.笑顔があって食欲があるなら,どんどん外に出ましょう.
元気な家族の中で育った子どもさんの方が、アレルギーは少ないですよ!
頑張って下さいね!

まずは、卵、小麦粉、粉ミルク、そば粉、きな粉、ピーナッツ粉を用意します。



・卵はメレンゲです。アマゾンで購入しています。こちら

・小麦粉は強力粉を近くのスーパーで購入。薄力粉よりも強力粉の方が抗原の含有量が多く、お勧めです。

・粉ミルクも市販のものです。銘柄はなんでも良いと思いますが、当院では森永 はぐくみのスティックタイプを使用しています。

・そば粉、きな粉、ピーナッツ粉もアマゾンで購入したもの 
  そば粉 きな粉 ピーナッツ粉
     ⇒販売終了になっていれば、別メーカーでも可

※殺菌のため、小麦粉、そば粉、きな粉、ピーナッツ粉は混ぜる前に加熱処理してください。当院では電子レンジで、500W 40秒を2回行っています。メレンゲは加熱すると抗原性が落ちるので、そのままです。

※余ったものは冷凍保存します。賞味期限が過ぎると廃棄しています。

以上の食物を用意し、さらに腸内細菌製剤を複数組み合わせてミックスパウダーを作ります。
レシピは以下の通りです。


P1 2.5mgミックスパウダー
卵 0.5g
小麦 0.5g
粉ミルク 2.5g
そば粉 0.5g
きな粉 0.5g
ピーナッツ粉 0.5g
ラックビー 5.0g 
ミヤBM 5.0g
ビオフェルミン 5.0g  0.1g ずつ分包 
(各2.5mg ミルクのみ12.5mg)

P2 7.5mgミックスパウダー
卵 1.0g
小麦 1.0g
粉ミルク 3.0g
そば粉 1.0g
きな粉 1.0g
ピーナッツ粉 1.0g
ラックビー 4.0g
ミヤBM 4.0g
ビオフェルミン 4.0g  0.15g ずつ分包 
(各7.5mg ミルクのみ22.5mg)

P3 20mgミックスパウダー
卵 2.0g
小麦 2.0g
粉ミルク 5.0g
そば粉 2.0g
きな粉 2.0g
ピーナッツ粉 2.0g
ラックビー 1.0g
ミヤBM 2.0g
ビオフェルミン 2.0g  0.2g ずつ分包 
(各20mg ミルクのみ50mg)

※P3の卵含有量は卵ボーロ(岩本製菓 5連ボーロ;1粒あたり全卵 23.5mg 粉ミルク 17.3mg)とほぼ同じです。ミルクは粉ミルク0.4ml、ピーナッツは1粒の25分の1、小麦はうどん1cm、そばも茹でそば約1cmです。


P4 50mgミックスパウダー(離乳食が進まないお子さんで使用)
卵 5.0g
小麦 5.0g
粉ミルク 5.0g
そば粉 5.0g
きな粉 5.0g
ピーナッツ粉 5.0g  /0.3g ずつ分包 (各50mg)


以下にまとめておきます。




なお、腸内細菌製剤を入れて分包した後は冷蔵保存です。
冷凍にすると、腸内細菌が死んでしまうからです。
また、分包後は6ヵ月で廃棄してください。