夏の思い出

2002.09.12記
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Aさんのこと

 今年の夏はことのほか暑かった。その日も暑い日だった。午後、図書館に出掛けての帰り道、3キロ余りだが、なるべく建物や樹木の陰を拾うように歩いて帰って来た。さらに日陰を求めて、いつもと違う道を通り、通ったことのない小路に入った。

めまつよいぐさ  すると、一軒のお宅に不幸があったらしく、忌中の立て札が立っていた。なにげなく振り向いて名前を見てあっと驚いた。Aさんが亡くなった?!

 先日お会いして、「またね」と別れてからまだ一週間経っていないではないか。しかも、すでに葬式はとっくに終わったらしく、人の出入りもなく、しーんとしている。

   Aさん、1900年生まれで、もうちょっとで満102歳の誕生日だった。詳しいことは分からないが、ご主人を戦争で失われたとか聞いた。子どもさんのこと、孫さんのこと、その孫さんの子どもさん達のこと等々、何度もなんどもお話を伺った。特に、孫さんの一人については、いろいろな関係から、私に会えば必ずと言っていいほど話題にした。

 耳が遠く、私は話をするとき耳の近くで大きな声で話をした。Aさんは、テーブルの向かい側の人と話をするとき、場合によっては椅子から立ち上がって話をするほど元気だった。
 あとで人から聞いたところによると、ほんの一日かそこら具合が悪かっただけで、あっという間のことであったらしい。

 「なんという子ども孝行!」というのが私の口から思わず出た言葉だった。「102歳おめでとう!」と言いたかったし、手足の爪など若い人のようで、まだまだと思っていた……。
 あの暑い夏の日の午後、あんな路地に入ったのは、もしかしたら、Aさんのお呼びだったのかも知れない、などと少しさびしく思い出したりしている。合掌。


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